初めての指ずぽ
「かり……かり……。かり……かり……すーっ……はーっ……かり……かり……」
それは囁きではなく、独り言だった。僕に語りかけるのではなく、自分に言い聞かせるように、シュシュは呟いていた。
シュシュに右耳を差し出しているので、その表情はわからない。しかし、息遣いだけで真剣なのは伝わってきた。少しでも手ブレを抑える為に呼吸を抑えて、耳かきを離してから深呼吸するという徹底ぶりだ。
だからこそ、僕は不安で仕方がなかった。
「かり……かり……ゆっくり……だいじょうぶ……すー……はー……かり……かり……」
お願いだから、自分に向けて大丈夫なんて言わないで欲しい。それは大丈夫じゃない可能性がある時の言葉だから。
さっきまでのシュシュだったら、こんな不安に駆られることも無かったのだろう。きっと、心も耳も気持ちよくしてもらえたはずだ。
『かーり♡ かーり♡ ほむら先輩、動いてはいけませんよ? いくら気持ちよくとも、震えては危ないですから……かり♡ かり♡ かりかり♡ かりかり♡ かりかりかりかり♡ くすっ♡ ほむら先輩は速くされるのがお好きなようですね……♡ それなら、もっと速くして差し上げます……でも、ちゃんと我慢してくださいね? すぐビクビクっ♡ となってはダメですよ? いきますよ……かりかりかりかり♡』
それなのに、どうして――
「かり……かり……あっ――」
「えっ!? なに!?」
「落ち着いてください、先輩。動かないでください……大丈夫です……大丈夫ですから……かり……かり……」
結局、説明はしてもらえなかった。説明するまでもないことだったと思うしかないのだろう。
確かに耳かきはちょっと危ない行為かもしれない。それでも、ここまで真剣になる必要があるのだろうか。これでは耳かきに自信が無いと自白しているようなものではないか。
「かり……かり……ふーっ……右耳が終わりました、先輩。次は左耳を向けてもらえますか?」
無事に片耳が終わったことに安堵を覚えると同時に、まだ片耳が残っていることに不安が止まらない。
「あ、あの、左耳はしなくてもいいんじゃないかな……?」
左耳を床に着けてシュシュから守ったまま、僕は勇気をふり絞ってみた。しかし、シュシュは容赦が無かった。
「……少し、失礼いたしますね」
「えっ……ひゃっ?」
シュシュの左手が僕の首元に滑り込んできた。しなやかな指に弄られて身を捩った瞬間に、細い指が左耳まで伸びる。そして――
「入れますよ」
「はっ、えっ――っ!?」
耳かきの時の慎重さとは対照的に、シュシュは躊躇なく指を僕の耳の穴に突っ込んだ。
「しゅっ、シュシュ君……ちょ、ちょっとっ……」
「爪は短く切ってます。万が一にも傷つけたりはしませんので、ご安心ください」
「でっ、でもっ……いひぃっ!?」
僕の耳の中で、シュシュの細い指が回転し始めた。内側の壁に指の腹を押し付けるように、ぐりぐりと。
更にピストンのようにずぽずぽと抜き差しする動きまで加わって、文字通り僕の耳の中はシュシュに蹂躙されていた。
「っ……ひっ、んっ……」
「……」
恥ずかしさとくすぐったさともどかしさで悶える僕にシュシュは何も言わなかった。その行為は淡々と、事務的に行われて……ようやく耳から指が出て行ったかと思えば――
「すんすん……」
「~~っ!!」
――シュシュは自分の指の匂いを嗅ぎ始めた。さっきまで僕の中で散々暴れていた指だ。恥ずかしくないわけがない。
しかもシュシュの表情はからかうでも煽るでもなく、真面目だった……だからこそ、直接耳を嗅がれるよりも羞恥心を煽られた。
「すん、すんすん…………左耳、出してください?」
「っ……は、はいぃ……」




