くんくん……♡ すんすん……♡ 先輩のお耳、少し匂いますね……もっと嗅ぎたくなってしまいます♡(妄想)
「くちゃいとは聞いていましたから、多少の匂いは予想していましたが……くんくん。すん、すん……? すんすん……はー……くんくん、くん、くんくん……? この匂いは……すー……すんすん……」
耳の裏の付け根、耳の縁、耳たぶ、耳の穴。シュシュは鼻先を擦りつけるようにして、満遍なく僕の耳の匂いを嗅いでいた。
麻薬探知犬に検査されている人はこういう心地なのかもしれない。
「くんくん……くん、くんくんくん……。これは……すー……はー……すんすん。なるほど……? すんすん、すー……ふー……くん、くんくん……すー……」
集中しているのか、夢中になっているのか、シュシュはひたすら僕の耳を嗅いでいた。シュシュが鼻を鳴らして嗅ぐ音があまりにも近すぎて、余計に羞恥心を煽られる。
ノノは僕の耳の匂いを嗅いだ後、耳を食べたくなったと言っていた。あの時のノノはトロンとした様子で、えっちだったことをよく憶えている。
もしかすると、シュシュもそうなってしまうのだろうか。今ですらちょっとえっちすぎるのに、もっとトロトロになって、僕の耳を求めてしまうのだろうか。
もしも、そうなったら……。
僕が妄想に耽っている内に、シュシュも匂いを嗅ぎ終わったようだ。シュシュは僕にピッタリとくっつけていた上半身を起こすと――
「ほむら先輩、耳かきをしましょう」
――真面目な顔で、ぴしゃりと言った。
さっきまでの色気も何処へいったのか、僕の上に乗っているのは真面目な学級委員に変わっていた……いや、真面目な学級委員は先輩相手に馬乗りなんてしないけど。
「あの、これ……」
居間から取ってきた耳かきを、正座で待っていたシュシュに手渡した。
「ありがとうございます。あ、ほむら先輩のおうちの耳かきってライト付きなんですね。使うの初めてなので、楽しみです。それでは先輩、もう一度仰向けになってください」
「う、うん……」
言われるままに自室の床に背を着けると、シュシュに再び跨られた。
耳かきを取りに行くために解放された僕が、どうしてまた素直に拘束されないといけないのか。おかしいとは思ったけれど、何となく突っ込めなかった。
あと、お礼はもらえたけど、褒めてはもらえなかった。
「まずは右耳からしますので、こちらに向けてください?」
「あの、えと……本当にこの体勢でするの? 危なくない……?」
「ご心配には及びません。むしろ、こちらの方が上半身が固定されるので安定します」
「でも、こういうのって……ひ、ひっ……何でもないです」
膝枕なんて、とても僕の口からは言えなかった。さっきまでのシュシュなら言わされていたのだろうけれど、今は言える雰囲気ではなかった。
「では……始めますよ。大人しくしていてくださいね……決して、動かないでください?」
ライトを搭載した、普遍的なプラスチック製の耳かき。その硬い先端が、僕の耳の穴の縁をなぞった。
おそらく、僕への配慮なのだろう。プールに入る前に水を胸にかけて体を慣らすように。シュシュは何度か入口をノックしてから、ゆっくりと耳かきを進め始めた。
「っ」
「痛いですか?」
「う、ううん……ちょっと驚いちゃっただけ……大丈夫」
耳かきを誰かにしてもらうなんて小学生ぶりで、自分ではしたことがない。
一年以上のブランクによって、僕の耳は驚くほど敏感で臆病になってしまったらしい。
「痛かったら遠慮せずに仰ってくださいね」
「うん……」
シュシュが操る耳かきが、身体の内と外の境界を弄る。カリカリ、サリサリという乾いた音が心地良くもあったが、それ以上に気になるのは――
「……………………」
「あの、シュシュ君……?」
「すみません、先輩……集中していますので……」
「あ、ごめん……」
「……………………」
――真剣すぎるシュシュが、逆に怖かった。




