上手にイヤイヤ、できますか?
「……えっ?」
聞き間違いだろうか。今、シュシュの口から聞きたくなかった言葉が出てきたような気がするけれど。
「ふふっ……ダメですよ、先輩。秘密にして欲しいのなら、ちゃんとそのことを言っておかないと。私とノノさんは仲が良いですから……私から尋ねなくとも、ノノさんの方から嬉々として教えてくださるんです。ほむら先輩のお耳がくちゃいことも……♡ ゆっくり、じっくりとしたキスがお好きなことも……ね♡」
まさかとは思ったけれど、本当に僕とノノの関係はシュシュに筒抜けらしい。しかもシュシュ曰く、ノノの方から聞いて欲しそうに報告しているらしい。
ノノからすれば惚気なのだろうが、僕からすれば辱めだ。ノノにしか見せないはずだった恥ずかしい僕を、よりにもよって目の前のシュシュに知られているなんて。
きっと、僕の耳は真っ赤になっているのだろう。鏡を見なくとも、シュシュの可笑しそうな笑い声を聞けばわかる。
「私もして差し上げましょうか? ゆっくり、じっくり……丁寧に……♡ 先輩のお耳を、ふーっ♡ と掃除して……くんくん♡ と鼻を鳴らしながら匂いを確認して……♡ 痛いくらいの甘噛み……して欲しいですか?」
「だっ、だめっ……それは、ほんとうにだめっ、だからっ……」
声色を精一杯に固くして、威嚇のつもりで毅然と拒絶した……つもりだった。
実際の僕の声は震えていて、掠れ気味で、シュシュの耳まで真っすぐに届いたかも怪しかった。
「ダメ? 違いますよ、先輩……そこは嫌と言わないと……♡ ほら、言ってみてください? いーや♡ いやいや、いーや♡ 上手に嫌々できないと……私、勘違いしてしまうかもしれません♡」
「っ……あっ、うぅ……っ、だ、だめぇっ……」
本当にされたいなんて思っていない。だって、きっと耐えられないから。だから僕は、シュシュからのキスを本気で望んでいない。
ただ、嘘を吐くこともできなかった。
「くすっ♡ 私のお話、ちゃんと聞いてましたか? いいえ、聞こえなかったことにしておきましょうか♡ ねえ、ほむら先輩♡ ふーっ♡ ふふっ♡ 嫌そうですね、先輩♡ びくびくっ♡ って震えてしまって……私の下で小さく縮こまってしまって……♡ 嫌で嫌で、仕方がないんですね♡ お耳に吐息をふーってされるの、気持ちが悪いですねー♡ ふーっ♡ ふっ♡ ふっ♡ ふーっ♡」
きっと、炎に息を吹き込んだように。シュシュが吐息を吹きかけるのに合わせて、僕の耳は真っ赤になって熱を帯びているのだろう。
体温に比例して敏感になっているのか、粘膜に直接吐息をぶつけられているかのようだった。
「ふふ♡ お耳、綺麗になりましたよ♡ 真っ赤になって、ビクッ♡ ビクッ♡ て震えてて……♡ ほんのちょっぴり、ふっ♡ てしただけで反応して……♡ これじゃあもうお外歩けませんね? 少し歩いただけで、ビクビクしちゃいますもんね……♡ それとも、まさかとは思いますが……私が相手だから反応してしまっている……なんてことは無いですよね? 私はほむら先輩の特別ではありませんもんね……♡」
「ちっ、ちがうぅ……僕の特別は、ノノ君だけっ、だからぁ……」
「そう♡ いいこですよ♡ ちゃんと言えましたね♡ えらい♡ えらい♡ しっかりノノさんへの思いを守れてますね……♡ それなら今はまだ、浮気にはならないので……ご安心ください? 次はお耳の匂いを確認させていただきます……先輩のくちゃいお耳、嗅いじゃいますね♡」
「やっ、やだっ……やめてっ、嗅がないでっ……」
ふにゃふにゃの抵抗では敵うはずもなく、僕が身体を揺すったり捩っても腕の一本も自由には動かせない。
シュシュは僕の拒絶を嬉しそうに受け止めながら、鼻先を僕の右耳に埋めた。少しだけくすぐったくて、とても恥ずかしくて――
「くんくん♡ すん、すんすん♡ すん…………ん?」
「……えっ?」
――思ってたのと、少しだけ違った。




