吸って、吐いて、その次は――
「ほむら先輩? 私の目を見てお話しくださいね。どうして、息を止め続けたのですか?」
「っ……その……たくさん我慢できた方が……よ、喜んでくれるかなって」
「目が泳いでいらっしゃいますよ? バレバレの嘘で誠意に欠けた態度を取られるおつもりなら、私も同じように振舞うだけです。先輩になら何をしてもいいという免罪符をいただけるのなら、私としても構いませんが……いかがいたしますか?」
「うぅ……いっぱい我慢したら、いっぱい褒めてもらえると思って……ごめんなさい……」
後輩に説教されるに留まらず、恥ずかしい願望まで告白させられるなんて、情けないことこの上ない。この羞恥心の全てを反省に回せないから、僕は似たようなことを繰り返してしまうのだろう。
シュシュは瞳を細めると、僕を冷たく見下ろした。
「いいですか? 私の言葉に素直に従ってくださっているから、私は褒めているんです。私は先輩の身体能力になんて毛ほども興味はありません。先輩がくじらと同じくらい呼吸を止められても、マグロと同じくらい速く泳げても、イルカに並ぶほど頭が良くても、私は褒めたりなんてしないのです」
どうやら、僕はまだ陸に上がるまでの進化をできていないらしい。必死に口をパクパクさせながら、ご褒美をおねだりする金魚といったところだろうか。
「逆に言うと、どんな簡単な命令であっても、先輩が従ってくれたら私はたっくさん褒めて差し上げます。少し息を止めるだけでも、ちょっぴりの我慢であってもです。私が嬉しいのは先輩の誠意……ウミウシのような緩慢さでも、ミジンコ程度の知能でも構いません……わかりましたか?」
「は、はいぃ……」
「良い返事ですね♡ それでは改めて……吸って―……吐いて―……♡ 吸ってー……止めて♡」
「んっ……」
シュシュに見つめられながら、頬を膨らませて呼吸を止める。犬が飼い主に向けてアピールするように、シュシュに忠実な姿を晒して見せる。
何か大事なことを忘れているような気がしたけれど、今はシュシュに見直してもらうことしか考えられなかった。
「そう……いいですよ♡ もう少しだけ止めましょうねー……はい、吐いてください?」
今度は素直に、僕は体の中に溜めていた息を吐き出した。万が一にもシュシュが見逃さないように、大袈裟に音を立てながら、干物になるくらいの勢いで。
「くすっ……上手♡ 上手に息が吐けてえらいですよ、先輩♡ 私の言う通りにするのは気持ちがいいですね♡ 私の指示に従っていれば、もっと気持ちよくして差し上げます……♡ そのまま吐いて……ゆっくり、全部吐き切って……止めて?」
「っ!?」
それは完全に不意打ちだった。張り切り過ぎた僕の体は空っぽで、たった1秒の停止でもパニックになりかけていた。
「大丈夫、ほんの少しだけですから……もうちょっとだけがんばってください、ほむら先輩♡」
吸った状態で止めるより、吐いた状態で止める方が何倍も辛い。体中が欠乏した酸素を求め始め、暴動を起こそうとしているのがわかる。
早く息が吸いたくて仕方がないのに、シュシュからのご褒美を覚えてしまった体は僕の意志を跳ね除けてしまう。
「では、失礼しますね……♡」
シュシュはのんびりとした動作で僕の懐に入ると、腰の上に跨った。そしてふたりの胸をぴったりと密着させ、互いの首を擦り合わせるように抱き着いてきた。
「っ? っ!?」
「お待たせしました、ほむら先輩……♡ 思う存分……吸って♡」




