ごめんなさい、ごめんなさい……♡
一つ目のボタンが外れる音は頭上から。第一ボタンが外れて、首元が露わになったのだろう。
二つ目のボタンが外れる音は耳元から。第二ボタンが外れて、胸元が……
「うわあぁぁっ! だめっ、だめっ……それ以上はほんとにダメなことに……あっ」
「くすっ♡ ほむら先輩たら、何をそんなに慌てていらっしゃるのですか? 私は学ランを脱いだだけなのに……ほむら先輩は夏でも学ランで過ごしていらっしゃるのでしょうか。随分と寒がりなのですね? それとも……ほむら先輩にとっては、これでも刺激が強すぎますか?」
「うっ、ううぅ……」
自分の早とちりが恥ずかしくて堪らない。学ランを脱いでも肌着とか裸になるわけじゃないのに、雰囲気に流され過ぎていたのだろう。
慌てて飛び退いた僕の視界に映ったのは、シャツ姿のシュシュだった。艶のある黒髪の持ち主であるシュシュにかかれば、ただの白シャツ姿でもコントラストが際立って様になっている。
真っ白いシャツにはうっすらと汗がにじんでいて、ほんの少し肌が透けて見えていて……やっぱり、刺激は強いのかもしれない。
「ほむら先輩も脱いだ方がいいですよ。もう梅雨が始まる季節です。湿気も、気温も、学ランではお辛いでしょう?」
「い、いや、僕はいいよ……」
「ダメですよ。汗もかいていらっしゃるじゃないですか……ほら、脱がして差し上げますから」
「いっ、いいって……じ、自分で脱げるからっ……」
脱ぐつもりなんてなかったのに、僕は自分の指を学ランのボタンにかけていた。無理矢理どころか、自分から脱ぐ展開になっていた。
シュシュの視線を感じながらも、第一ボタンから一つずつ、シュシュといっしょに学ランを脱ぐ。こうして僕は自室で、恋人ではない後輩とふたりきり、お揃いの汗ばんだシャツ姿になったのだった。
「さあ、ではなでなでの続きをしましょうか」
「うぅっ……ま、まだするの……?」
「ふたりが満足するまで、でしょう? それに、先輩のほうが欲求不満に思えるのは、私の気のせいでしょうか……♡」
違う、と口で否定するだけなら簡単だけど、行動は誤魔化しようがない。遠慮がちでも、表面上は嫌々でも、実際に僕はシュシュの元へと戻ってしまった。
強制なんてされていないのに、自分の意志で、年下の男の子に抱きしめてもらうために。
「おかえりなさい……♡ やっぱり、先輩も求めていたのですね」
「ち、ちがくて……だって、シュシュ君が続きって言うから……」
あくまでもシュシュに言われたからだから、僕はまだ負けてない。
信じて欲しい。
見守っていて、ノノ。
「ほむら先輩がそう仰るなら、そうなのかもしれませんね……よしよし♡」
シュシュの手が僕の頭を撫でる。頭の中にたくさん用意しておいた言い訳は、その一撫ででどこかにいってしまった。
学ランよりも薄いシャツ越しの心音は、音の大きさはもちろんのこと精彩さが違った。薄い胸の向こう側で、シュシュの小さな心臓が膨らんでは縮む様子が目に浮かぶようだ。
互いに汗ばんだ体で密着するなんて、気持ち悪いはずなのに。僕は、どうしてぎゅってしてくれないのだろう、なんてことまで考えてしまっていた。
「ほむら先輩、呼吸が乱れていますよ? そんなに鼻息を当てられては、私もくすぐったいです」
「えっ!? そ、そんなに……ご、ごめんなさい」
「くすっ♡ いいんですよ。先輩がちゃんと謝ってくれたことの方が嬉しいですから……♡ これからも、悪いことをしてしまったら、すぐに私に謝りましょうね♡」
「っ……ご、ごめんなさいっ……ごめんなさい、ごめんなさいっ……!」
「はて? 今度は何を謝っていらっしゃるのでしょうか。もしかして、何か後ろめたいことでもお考えですか? 心の内で思ってるだけなら、謝ることはありませんよ。問題はそれを口に出したり、実行に移すこと……そうでしょう?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ……っ」
「? もしかして……謝るだけで気持ちよくなってしまっているのですか? ふふっ……ふふふふ♡ 自分勝手な謝罪について謝罪をしているというわけですか……先輩はすごいですね♡ 流石の私も脱帽です」
「ごめんなさいっ……っ、ごめっ、ごめんなさいっ……」
「よしよし♡ 謝れてえらい♡ えらい♡ 大丈夫ですよー♡ ちゃんと謝れるいいこにはなでなでもしてあげますし、ぎゅうぅっ♡ もして差し上げます……嬉しいですか?」
「っ……ごめん、なさいっ……ごめんなさいっ……」
誰に向けての謝罪なのかも曖昧なまま、唇からは気持ちよくなれる魔法の言葉が漏れ続ける。シュシュの胸に縋りつくように縮こまりながら、僕は甘美な劇毒の雫を享受し続けていた。




