謝るのは気持ちいいこと
「あっ、申し訳ありません。唇が触れてしまいましたね。でも、大丈夫ですよほむら先輩。ご存知かとは思いますが、ノノさんも内緒話の時は距離が近いですから。私もくすぐったい思いを何度もさせられています。ですから、耳に偶然唇が触れてしまって、結果的に耳にキスをしてしまっても浮気にはなりません……これだけなら、浮気じゃないんです。言っている意味、わかりますか? だから……そんなにびくっ♡ びくっ♡ って怯えなくてもいいんですよ♡」
免罪符を得たつもりなのだろう。もはや耳にぷっくりと唇をくっつけながら、吐息たっぷりの声で囁いていた。
ここまでされて黙っていられる僕じゃない。シュシュの詭弁に弄されるのはおしまいだ。ここは年上としての威厳を見せて、ガツンと言ってあげよう。
「よしっ……シュシュく――っ!?」
主導権を握ろうと口を開いた途端に、僕は再びシュシュの胸に抱き込まれていた。何をするにも決意が必要な僕とは違って、シュシュは何においても一手が早すぎる。
「やっ、やめふぇ……ほんとに、おふぉるよ……? ぼく、おふぉるから……っ」
「くすっ♡ 何を言っているのかわかりませんよ? ふがふがと、私の学ランを頬張りながら話されても困ってしまいます。涎もこんなに垂らして……染みが出来ているではありませんか♡ これでは赤ちゃんの前掛けです……困った先輩ですね♡」
「だっ、だっふぇ……ひゅひゅくんがおひつけるふぁら……」
「謝ってください? ほむら先輩、私の学ランを涎でべとべとにしてごめんなさいって……謝ってくれたら許して差し上げますよ?」
「っ……ふぉっ、ふぉめんなひゃい……」
「はい、いいですよ♡ 素直に謝れてえらいですねー♡ ほむら先輩はいいこ♡ いいこ♡ よーしよしよしよし♡」
あんなに意気込んでいたのに。気づけば僕の口は謝罪を漏らしているばかりか、褒められていることに喜びすら感じていた……褒めてもらいたいがために、謝る理由すら探してしまうほどに。
「うぅっ……よ、よりかかっててごめんなさい。お、重いよね……? 僕、シュシュ君に体重かけちゃってて……」
「赤ちゃんの重みを喜ばない者などおりません。そもそも、私が抱きしめているのですから。でも……偉いですね♡ 自分で気づくことができて、言われなくとも謝れて、偉いですよほむら先輩♡ いいこの先輩は、たくさん褒めて差し上げないと……いいこ♡ いいこ♡」
「うぅ……うぅ~……」
シュシュの指が頭頂部に触れるたびに、期待だけで体が熱くなってしまう。
焦らすようにつむじをいじられるだけで、もどかしさで体を捩ってしまう。
撫でられている間は体から毒素が抜けていくように気持ちよく、撫で終わった瞬間には次が欲しくて堪らない。
内心では気づいていた。僕が謝っているのはおかしいと。でも、謝らずにはいられなかった。
シュシュの言葉に納得してしまっていて、褒められるのが嬉しくて、手玉に取られてしまって逆らえない。
「なーで♡ なーで♡ ほむら先輩、体がぽかぽかとしてきましたね……♡ じんわりと温かくて、本当に赤ちゃんみたいです♡ ふぅ……私も熱くなってきちゃいました……いっしょに脱ぎましょうか♡」
ずっとシュシュの心音がどくどくと響いていた僕の耳に、学ランのボタンを外す音が聴こえてきた。




