インモラルな契約♡
「良かったらなんですけれど、頭を撫でさせてはいただけませんか?」
「は? え? あたま……僕の?」
「実は、昔から弟が欲しくて……ノノさんにはよく、撫でさせてもらっているんです」
シュシュがノノを甘やかしている様子は容易に脳裏に浮かんだ。僕とノノよりもずっと絵になる光景だ。是非とも居合わせてみたい。
「ほむらさんを抱きしめていると、その時のことを思い出してしまって……手が寂しくて……。先輩を手慰みに使おうだなんて不敬だとわかっているのですが、この欲求も如何ともしがたいものでして……よろしいでしょうか?」
胸に押し付けられているせいで表情はわからなかったけれど、シュシュの声には寂しさが滲んでいた。聞いているこちらがもどかしくなってしまうような、いじらしいおねだりだ。
僕はつい「い、いいよ……」と控えめに受け入れてしまった。
「ありがとうございます。それでは……なーで♡ なーで♡」
細く長い指が、僕の頭を撫でる。指の腹を髪の根元にあてて、かきわけるように。
それは子供を褒め撫でるというよりも、犬をトリミングする手つきに思えたのは、僕の気のせいだろうか。
「よーしよし♡ おとなしくできて、えらいえらい♡ いいこですねー♡」
やっぱり、これは弟というよりペットだろう。撫で方も、猫撫で声も、子犬にするそれだ。
恋人のノノは別として、年下のシュシュに甘えて平気なほど僕は恥知らずじゃない。気恥ずかしいのでシュシュから離れようとしたところ、強い力で押さえつけられた。
「……え?」
何かの間違いかと思ってもう一度力を込めてみたが、やはり僕はシュシュから離れられなかった。その細い腕でしっかりと抱え込まれてしまって、ろくに動けなかった。
「シュ、シュシュ君……あの、離して……?」
僕の口からは、困惑がそのまま声になったような震え声のお願いが飛び出した。
返ってきたのは、耳を吐息で包み込むような拒否だった。
「だーめ♡」
それは、脳に直接言い聞かせるような躾けだった。思考も、意志も、感情も、全部をトロトロに溶かしてしまいそうな甘い声に、僕は情けなくもびくっと反応してしまっていた。
「いけませんよ、先輩♡ ほむら先輩は先ほどなでなでを受け入れたのですから、勝手に止めるなんて許されません。私のお話、わかりますか?」
「う、うん……僕は一度いいよって言ったんだから、責任持たないとってことだよね。ごめんね、離れようとして」
「その通りです♡ よくできましたね、謝れてえらいですよー♡ いいこ♡ いいこ♡ なーでなで♡」
ぎゅっと胸に抱き込まれたまま、頭を掌でさらさらと撫でられる。
ノノが相手の時は、年下に甘えているという情けなさがあった。でもシュシュに撫でられた時、僕の背筋をぞぞっと走ったのは背徳感だ。インモラルな禁忌に手を出しているような感覚だ。
もしかして僕は今、いけないことをしてるんじゃないだろうか……?
「ほむら先輩の体は私と半分こしているんです。何かをしたかったら、ちゃんと私に確認を取ってくださいね? ふふっ……なでなで♡」
……なでなでで体半分は、ちょっとぼったくりすぎでは?




