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あまあまでサドサドな男の子たち  作者: papporopueeee
放課後の教室デート編

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24/55

離れないように、ほぐれないように、絡み合わせて

「で、でも……でもっ……」


「せんぱい、はやく……見回りの先生が来ちゃうよ? あんまりノノにいじわるしないで?」


 ノノは僕を横目に見ながら、不満そうに唇を尖らせた。


 これは誠意の話だ。ノノは耳を差し出して素直におねだりしているのに、僕は恥をかかせるのか。自分は散々してもらっておきながら、ノノにするのは嫌だと駄々をこねるのか。


 覚悟を決めて、僕は椅子から立ち上がった。僕は、ノノの恋人なんだ。多少の恥がなんだ。ノノのおねだりを叶えてあげられなくて、何が恋人だ。


 耳ふうくらい、耳キスくらい、甘噛みだって、ノノが望むならいくらでもしてやる。


「わ、わかった……するよ。ま、まずは、耳にふーってすればいいんだよね? へ、下手かもだけど……ゆるしてね?」


「うん、いいよ。上手にできなくても、代わりにたくさんふーっ♡ ってしてもらうもん♡」


「たくさん……うん、わかった、おーけー……」


 たくさんとは具体的に何回なのだろうか。10回もすれば満足してくれるのだろうか。でも、あんまり多いと耳の中が乾燥してしまうかもしれない。ひとまずは5回くらいで様子を見よう。


 ノノの左側面に立ち、左耳を正面に捉える。ノノの耳が赤くなっているのは羞恥心のせいか、緊張のせいか。どっちにせよ、僕に期待してくれているのは間違いない。


「じゃ、じゃあ……いくよ?」


「来て、せんぱい♡」


 少しずつ、視界に映るノノの耳が大きくなっていく。その代わりに小さな鼻が、大きな目が、ふっくらとした頬が視界から外れていく。


 これはどこまで近づけばいいのだろうか。まさか密着させるわけにもいかないし、遠すぎるとノノが頬を膨らませて怒るかもしれない。それにふーをする場所も決めていない。耳全体にかかるようにするのか、耳たぶを揺らすようにするのか、穴に直接かけてもいいものなのだろうか。ここはいったん身を退いて、先にノノと認識を合わせてからの方が――


「ふっ……ふふっ……くふぅっ」


 突然、ノノが身を捩った。そして首を押さえながら少しだけ身を退いて――


「せんぱいっ……鼻息すごすぎっ……んふーって感じで、ノノくすぐったいよ?」


 ――ノノは瞳を細めながら、まともに耳ふうもできない僕を嘲笑した。


「あっ……うっ……――」


 違う。ノノは僕を嘲ってなんてない。ノノはそんな子じゃないのだから、これは僕の勘違いだ……でも、本当にそう言い切れるだろうか。ノノの中に僕を馬鹿にする気持ちがないなんて、どうして僕が言えるのか。


 耳ふうは僕なんかがしてはいけない行為なのに、僕はそれをしようとした挙句に失敗した。とても恥ずかしいことをしてしまったのだ。


 恥ずかしい。誰にも見られたくない。ノノにだって見られたくないのに……妄想がそれを許してはくれなかった。


『せんぱい、必死すぎw 耳ふうするだけでそんな興奮してるの? キモちわるぅw お鼻を膨らませた顔もみっともないよ? はーはーしてる息も臭いし、ノノを見る目もほんとキモい……先輩、あっち行って欲しいな?』


 鼻の奥にツンとした痛みが走って、視界が滲み始める。たった一瞬の妄想で僕は心が折れかけてしまって、それが一層情けなくて、でも――


「もう、落ち着いてせんぱい。ただ耳にふーってするだけでいいのに……せんぱいがそんなに必死になってたら、ノノ期待しちゃうよ?」


 ――目の前に居るノノが、ヒビの入った僕の心を優しく撫でてくれていた。


「あっ、せんぱいのお鼻……もしかして、がまんしてる? カッコよくなっちゃってるよ♡ いつだってノノのために全力なせんぱい……♡ カッコいいせんぱいは、どんな耳ふうをしてくれるのかなぁ? 楽しみだなぁ……きっとすごすぎて、予想もできない耳ふうなんだろうなぁ……♡ せんぱいがされている時よりもすごい顔、ノノもしちゃうのかも……♡ スマホがあったら録画できるのに……ざんねん♡」


 ちょっと撫ですぎかもしれない。ハードルが上がりすぎてとんでもないことになっているかもしれない。すごすぎて予想もできない耳ふうってなに……


 これではさっきまでとは違う意味で耳ふうがしにくい。どうしたものかと悩む僕の耳に聴こえてきたのは、終わりを告げる足音だった。


「ま、まずい! きっと見回りの先生が階段を上ってきてるんだよ! 怒られるより先に早く帰ろう!!」


「え、あ、せ、せんぱい!?」


 ふたりぶんの鞄を持って、ノノの手を引いて教室を出る。大義名分がある時だけは強引になれるのだ、僕は。


「…………」


 教師に叱られない程度の早足で廊下を駆ける中、ノノは無言だった。勝手に切り上げて逃げ出した僕を責めるかもと思っていたが、文句の一つも言っていない。


 もしかして、実はそこまで乗り気じゃなかったのかもしれない。そう思い様子を見てみれば、ノノはとんでもない膨れ面になっていた。


「…………」


 今この瞬間もノノの膨張は止まっていない。このままでは3階の廊下がノノの頬袋でぱんぱんになってしまいそうで、僕は思わず謝罪を口にしていた。


「あの……ご、ごめんね? 最後までしてあげられなくて……」


「いいもーん。時間が迫ってるのはノノだってわかってたもん。それに……ノノたちはこれがしたかったんだもんね?」


 僕の右手の中でノノの左手がもぞもぞと動く。ノノの指をまとめて握っていた僕の手は、いつの間にか一本ずつ絡み合う形になっていた。


 ノノがほんの少し人差し指を動かすだけで、僕の中指と人差し指がくすぐられる。つられて僕が指を動かせばノノの指をくすぐってしまって、また僕がくすぐられる。

 そんなやり取りが可笑しかったのか、ノノは笑みを零した。


「えへへ……ちょっとだけ恥ずかしいね、せんぱい」


「う、うん……でも、嬉しい……」


 絡み合って組み合った指は、ちょっとやそっとのことでは離せない。まるで僕たちふたりの未来を暗示しているよう……なんて、ちょっと夢を見すぎだろうか。


「ノノもうれしいよ……でもでも――」


 ノノはいたずらっぽい笑みを浮かべながら僕に近づくと、耳元に唇を添えて囁いた。


「次は、逃げちゃだめだよ? せんぱい♡」


 互いに強く手を握り合いながら、僕たちは暗くなり始めた校舎を後にした。

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