おねだりしちゃだめな、へんなこと
「えっ……あっ、えっ? するの……? 僕が……ノノ君に……?」
「うんっ♡」
ノノは満面の笑みだった。どうやら、いつもの無自覚ないじわるではないらしい。
「でも、僕がしても……へ、変だから……止めておこう?」
耳への吐息も、キスも、甘噛みも、ノノがするから魅力的なのだ。天真爛漫で、誰からも愛されるノノがするからこそ価値があるのだ。
いっぽうで僕はどうか。内気、ネガティブ、運動音痴で頭も良くない。いつもクラスの端っこで、誰にも認知されない陰キャだ。
そんな僕が、ノノのようにスキンシップをするなんて……恥ずかしくて死んでしまう。ノノは笑わなくても、誰も見ていなくても、僕自身が恥ずかしいんだ。
「変……? どうして? どうして、せんぱいがノノと同じことをすると変になっちゃうの?」
「だ、だって……おかしいよ。僕なんかが、その……耳にふーってするとか……そうでしょ?」
「……? せんぱい、ノノにおかしいことをさせてたの? まさか……へんたいさん?」
「ちち、違うよ!? ノノ君がする分にはちっともおかしくなくて、ただ僕がしちゃダメってだけだから!」
「? ……??」
ノノはだまし絵でも見ているような反応だった。眉根を寄せて、凝らすように目を細めて、ノノは僕をまっすぐに見ていた。
「何がおかしいのかわからない。少しも変とは思わない」と、ノノは態度で示していた。
「わかりやすく言うと……ノノ君が誰かの耳にふーってしてても、みんなはプラスの感情しか持たないんだよ。可愛いとか、愛らしいとか、自分もされたいとか。でも、僕はその逆……僕が同じことをすると、みんなマイナスの感情を持つの……気持ち悪い、調子乗ってる、変態って感じで……」
「せんぱい……やっぱり、へんた――」
「だ、だからね?」
話の腰を折られそうだったので、僕は慌ててノノの言葉を遮った。
「僕はしない方がいいんだよ。耳ふうも、耳へのキスも……だって、僕がしたらみんなは変だって思うから」
「みんなってだれ? ここにはノノとせんぱいのふたりだけだよ?」
「それは物の喩えだよ。実際に見られているわけじゃなくても、気持ち的には同じというか……わからない?」
「わかんない」
即答だった。授業中もこんな風にあっけらかんと答えているのだろうか。
「ノノ、ちゃんと秘密にするよ? せんぱいとノノが恋人なのも、ちゃんと秘密にしてるよ? それじゃあダメなの?」
「だ、だから、他の人に知られなくても、自分が観測してる時点でダメと言うか……僕が僕を恥ずかしいと思う感じで……」
「? ?? ???――~~っ、もうわかんな~い!!」
疑問符がぽこぽこと湧き出て零れ出ていたが、ついに限界を迎えたらしく、ノノ山は噴火してしまった。近隣の住民は避難するべきなのだろうが、生憎と僕はノノに魅了されていて逃げられない。
「せんぱい、むずかしい話はやめよう? ノノは、せんぱいにして欲しいの! せんぱいがいいの! 他の誰も関係ないよ! せんぱいにしかして欲しくないもん……せんぱいは? ノノに、したくないの? ノノのこと、嫌い?」
「ちっ、違うよ! そんなわけない! だっ、大好きだよっ! ただ、それとは別に恥ずかしいって気持ちもあってっ……耳ふうとかはその……普通のキスとか、ハグとかとはちょっと違う行為というか……」
「恥ずかしいなんて今更だよ! さっきまでのせんぱい、すっっごく恥ずかしい顔してたじゃん!!」
「それは…………え?」
「お口をだらしなく開けて、お鼻もふがふがしてて、お目目もどこ見てるのかわかんなかったし……ノノ以外には見せちゃダメな、とっても恥ずかしい顔だったんだから!」
……どうしよう、死にたくなってきた。
「だからせんぱい……して? せんぱいの好きって気持ち、ノノに直接ちょうだい?」
ノノの手がふわふわの髪をかき上げると、左耳が露わになった。耳たぶも含めて小さい耳は愛らしく、ほんのり赤く染まっていた。




