満足しないと出られない部屋
「食べ……え? 食べたいって言った? 今……え?」
「うん♡ ノノ、せんぱいのお耳を食べたいなぁ♡ ノノに、せんぱいのお耳食べさせて?」
「いや……いやいやいや、そうはならないよ。冷静になって考えれば、そうはならないよ?」
「でも、ノノはなっちゃったんだもぉん。こうやってぇ……すんすん♡ せんぱいのおみみぃ……くんくん♡ はー……♡ 匂い嗅いでたら、食べたくなってきちゃったぁ♡」
ノノは鼻先を耳の溝に突っ込んで、夢中で耳を嗅いでいた。ここまで近いと、頭の中を嗅がれているような錯覚さえ覚えてしまう。
ノノはどういうニュアンスで食べたいと言っているんだろう。耳を唇で挟んだり、優しく甘噛みするくらいだったら、むしろ胸が高鳴ってしまうけれども。
しかしもしも本気で噛まれてしまったら、本当に痛いことをされたらと思うと不安だった。食いちぎりはしないだろうけれど、しばらく歯形が残るくらい、ひりひりと痛みの余韻が残るくらい、マーキングするみたいに噛まれて……くせになっちゃったらどうしよう。
「ダメ! ダメダメダメダメ! ノノ君、ダメだよ? 絶対ダメだからね? 食べちゃダメ、ステイ! これ以上は取り返しがつかなくなっちゃうから!」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよぉ、せんぱい♡ だいじょうぶだからねぇ♡」
「どこが!? 何が!?」
ノノはマタタビを嗅いだ猫のようにトロトロになりながらも、両手で僕の肩をしっかりと掴んでいた。小柄なノノが相手でも、肩を抑えられては立てそうにない。
正直に言うと、不安はあれど拒絶する理由は無かった。ノノが僕を痛めつけるなんて考えられないし、食べる振りをするくらいなら強く断る必要も無い。
それなのに……自分でもわからないのだけれど……僕の口から出たのはノノを窘める言葉だった。
「ダメったらダメだよ、ノノ君。ほら、ちょっと深呼吸して落ち着こうよ。そうしたら、僕の耳なんて食べたくなくなるよ?」
「むぅ……せんぱいのいじわる……。それじゃあノノ、もうせんぱいのお耳にちゅってしてあげなーい」
「えっ……」
「こうやってぇ……ふー♡ ってしてあげるし……くんくん♡ もしてあげるけど、キスだけはダメ……それでもいい? ねえ、せんぱい?」
ここで毅然と強がれたら、どんなに良かったか。
「あっ♡ せんぱい、がまんしてる♡ ノノにはわかるんだよ? あのね、せんぱいはがまんしてる時、お鼻がぴくぴくっ、ひくひくってして、唇もきゅってしちゃうの……カッコいいね♡ 本当はノノにちゅってして欲しいのに、一生懸命カッコつけてくれてる……ノノにカッコいいところ見せようとしてくれてるんだ……カッコいい♡ カッコいいよ、せんぱい♡ でも……ふー♡ ふー♡ ふーっ♡ 今は、ノノにかわいいせんぱいを見せて欲しいなぁ? くん、くんくん♡ すんすん♡ ふー……♡ ノノだけのかわいいせんぱい、出しちゃお?」
ああ、分かった……僕はこれが欲しかったんだ。
ノノにこうされたかったから、僕は――
「あっ……下校のチャイム鳴っちゃった。もう帰らないとだ。今日はもうおしまいだね、せんぱい? だから、ほら……手を離してくれないと、ノノ帰れないよ?」
「……し、して?」
「なあに? チャイムのせいで、はっきり言ってくれないとノノわからないよ? せんぱい、チャイムに負けないで♡ もっと声をおっきくして……がんばって、せんぱい♡」
「っ……ちゅっ、ちゅうっしてっ……まだ、帰らないで?」
「せんぱい、違うよ? ノノが今欲しいのは、それじゃないよ?」
「~~っ……僕の耳、ノノ君にあげるからっ! だから……だからっ、僕の耳を食べて?」
「せんぱい……~~♡ うれしい! せんぱいってば、お耳もくれちゃうくらいノノのこと……♡ でもでも、その気持ちだけもらっておくね? せんぱいの体はせんぱいのだもん。ノノはその言葉だけでうれしいから……だから、たっくさん、お返しするからね♡」




