漏れていく僕
「お耳……? せんぱい、お耳にもキスして欲しいの? 変なのー」
「あ、あはっ、あはっ、そうだよね、こんなの変だよね。や、やっぱり、だめ……かな?」
「んー……」
唇に指をトントンと当てながら悩むノノ。その姿は唇に確認を取っているようにも見えた。
受け答えを間違えただろうか。変という感想は肯定しない方が良かったかもしれない。普通だって思ってもらえたら、ノノだって悩まないで……変態認定されて断られたらどうしよう。
心臓が耳にあるみたいに鼓動がうるさい。まるで1000万円をかけたクイズに挑戦しているみたいだ。僕にとっては、ノノのキスにはそれくらいの価値があるけれども。
ノノは悩んでいるだけなのに、優しく首を絞められているような心地だ。早くこの苦しみから解放されたくて、でも答えを出さないで欲しいという思いもあって……狂ってしまいそうになる中、ついにノノが口を開いた。
「ノノにはよくわかんないけど……せんぱいがして欲しいならしてあげるね!」
「やっ――……あ、ありがとう。とっても嬉しいな」
「ほっぺたはこっちだったから、お耳は反対側でしてあげるね?」
ぱたぱたと軽い音を立てて右耳側に回り込むノノ。移動で生じた小さな気流が首を撫でて、たったそれだけで身をよじってしまうくらいに僕の体は期待で敏感になっていた。
「それじゃあ、さっそくするね。んーちゅっ――」
「あれっ!? ふーは!?」
「へ? あっ、お耳もじっくりが良かったの? ごめんね、ノノ気付かなかった」
「う、ううん? べ、別に……じっくりして欲しかったなんて、そんな……ただ、さっきと違ったから驚いちゃっただけで……」
今更取り繕う必要なんて無かったのに。今更カッコつけて見栄を張ったところで手遅れなのに。こうやって隙を見せるから、ノノが面白がって……僕はイジメられちゃうのに。
「ふーん? それならせんぱい、お耳はキスだけで終わらせちゃう? かるーく、一回だけ。ちょっとだけちゅってしておしまい。それでいい?」
「っ……の、ノノ君がそうしたいなら……僕には無理強いなんて出来ないよ」
「ノノはね、せんぱいのして欲しいことがしたいよ。だから、せんぱいがして欲しいことをノノに教えて? 正直に、全部……ノノに聞かせて? あっ、えっちなことはダメだからね!」
耳元で囁くノノの声といっしょに漏れた微かな吐息が、僕の耳を掠って焦らす。正直にお腹を見せて服従すれば、ノノは犬を愛でるように可愛がってくれるって、僕は知ってしまっている。
「ふふっ……せんぱい、カッコいいね♡ ノノのために、カッコつけてくれてる……好き♡ 大好き♡ カッコいい♡ でも、ガマンできなくなっちゃって、赤ちゃんみたいにぜーんぶお漏らししちゃうせんぱいもノノは好きだよ? 可愛いもん……♡ ねえ、せんぱい? せんぱいはどっち? 可愛いせんぱいと、カッコいいせんぱい……どっちをノノにくれるの? 教えて、せんぱい♡」
空気をたっぷり含んだノノの囁きは、耳を素通りして脳の中で反響しているようで……ノノに求められるがままに、僕は僕を吐露していた。
「じっ、じっくり……丁寧に、キスして欲しいっ……です……」
「そうなんだぁ……♡ せんぱい、ノノにお耳をふーってして欲しいの?」
これ以上は許して欲しくて、僕はぎゅぅって縮こまりながら必死に首を縦に振ったのに――
「せんぱい♡ がんばって♡」
「っ……しっ、してっ……ふっ、ふぅっ……ふーって、してぇ?」
「正直に言えまちたねぇ♡ えらいでちゅよー♡ 可愛いでちゅよ、せんぱい♡ 上手におねだりできたせんぱいには、ご褒美をあげまちゅねー♡」
耳元だったから、その音はよく聴こえた。
ノノが息を吸う音。その小さな肺を膨らませる音。そして音がピタっと止まるのも、よく分かった。




