ノノ、大満足
「だっ、ダメだよせんぱい! 前にも言ったでしょ? ノノもせんぱいもまだ子供なんだから! えっちなことはダメっ! メぇっ!」
目をぎゅっと閉じて、手をぶんぶんと回しながら叫ぶノノ。突き飛ばしたことへの謝罪や心配よりもお説教を優先するくらいに、ノノにとってはえっちがタブーということだろう。
しかしそうなると、ノノが僕から引き出したかった言葉は何だったのだろうか。僕はノノに言われた通りに本心を晒したつもりだったのだけれど……いや、今はそれよりもキスだ。不発にはなってしまったが、まだキスの流れは完全には消えていない。
このチャンスを見逃すなんてしたら、僕は向こう1週間はベッドで悶々とすることになってしまうだろう。今夜の安眠のためにも、僕はノノとキスをしてみせる……あわよくばノノからキスされたい。
「そうだよね……寝てる間に勝手にキスしようとするなんて、最低だよね……本当にごめんね、ノノ君。でも僕のノノ君が好きだって気持ちは本当だから。傷つけたくないし、大事にしたいと思ってる。だからこそ、好きって気持ちが抑えられなくて、ノノ君の可愛い寝顔を見ていたらつい魔が差してしまって……ごめんなさい!」
「~~っ……も、もう……ノノが怒ってるのはそこじゃないもん。キスだって、したいって思ってもらえるのはノノも嬉しいよ? ただ、そこからえっちなところまでいっちゃうのはダメってだけで……だって、せんぱいはノノのこと好きなんだもんね? ついキスしたくなっちゃうくらい、せんぱいはノノのことが大好きで……えへへぇ♡」
キスするように両手の指先をツンツンと合わせながら、くねくねと身をよじるノノ。怒っていたのが嘘だったように表情が緩みきっている。頑なに見えた態度も、今は抱きしめたらとろけそうなほどに柔らかそうだった。
何が切っ掛けかはわからないけど、今のノノは上機嫌らしくキスもまんざらでもないように見えた。
「そ、それじゃあキスっ……し、してもいい? えっちなことまではしないし、ノノ君が嫌なら無理強いはしないからっ……でも、できたら……ノノ君からしてくれたら嬉しい、なんて……だめ?」
「だめじゃないよ……それなら、ノノだってしたいもん。ノノ、せんぱいにキスしたい……してもいい?」
「うっ、うん! うん! うん! して欲しい! お願いします!」
「わかった、じゃあ――」
あまりのとんとん拍子に僕が心の中で万歳している隙に、ノノは音も無く滑らかに椅子から立ち上がった。懐に軽い衝撃を感じた次の瞬間には、僕の首にノノの両腕が巻き付いてきて――
「はい、ちゅっ♡」
――視界からノノが消えると同時に、僕の頬に柔らかいものが触れた。
「え……あ、え?」
何が起きたのかも理解できない、目を瞑る時間すらもらえない早業だった。ただ柔らかいもの同士が触れ合った感触だけが頬に残っていて、その余韻が溶けるよりも前に、ノノは僕の正面に戻っていた。
「えへ~♡ ノノ、せんぱいにキスしちゃったぁ……♡」
両手を添えたノノの頬がうっすらと上気している。だらしなく開いた口からは深く長いため息を漏らしている。何度も記憶を反芻しているのか、瞳はぼやけている。
状況についていけていない僕を置いてけぼりにして、ノノは一人で満足気だった。
「……き、キスって、そっちだったんだ」
「え? そっちって……もしかしてせんぱい、えっちなちゅうを期待してたの?」
「ううん!? そんなことないよ!?」
ノノからじとっとした軽蔑の瞳を受けるよりも前に、僕は慌てて否定した。期待を外されてしまったけれど、ノノに軽蔑はされたくない。
しかし不意打ち気味に頬にキスされただけでは欲求不満なのも確かだった。むしろこれではキスされる前よりも欲求が刺激されてしまっていて、じれったくてもどかしい。
「……っ、ノノ君? も、もう一回して欲しいなー、なんて……」




