欲望のままにしたいことを
だって、僕とノノは恋人だから。
だって、恋人とはそういうものだから。
だって、こんなにもしたくてたまらないのだから。
「す、するね……するよ……?」
これが最終確認であり、最後通告。本来沈黙とは肯定の意味も否定の意味も持たない。でも、無防備に寝入っているノノの姿は僕を受け入れてくれているように見えた……なんて、都合が良すぎるだろうか。
「っ……」
一歩、ノノとの距離を詰める。見下ろす視界の中で、ノノの鼻が何かを感じ取ったようにひくひくと動いた。でも、瞼は閉じたままだ。
更に一歩、ノノに接近する。近すぎるせいで表情が見えなくなって、代わりに呼吸音が鮮明になった。穏やかな寝息は気持ちよさそうで、起きる様子は無い。
膝を折って、ノノとの高さを合わせる。まつ毛の1本1本、唇の艶までわかる距離だ。瞼がぴくっと動いて、ノノの目が開いた。
「あっ……」
失敗してしまった。僕がキスをするよりも前にノノは目を覚ましてしまった。バツが悪くて僕が顔を逸らす一方で、ノノはいたずらっぽく微笑んでいた。
「せんぱい? なにしてるの?」
「いやっ、その……何も……」
何もしていないはずがない。何かをしようとしていないとこの近さに説明がつかない。それを理解していても、僕はただ口ごもるしかなかった。
距離だけでも離そうとしたが、ノノに袖をつままれて許してもらえなかった。
「言って欲しいな? ノノは、先輩のしたいことが知りたい……ダメ?」
「……きっ……キス、しようとしてました……ごめんなさい」
口ごもることすらできない無様な僕を見て、ノノはくすっと嬉しそうに嘲笑した。もちろん僕からそう見えているだけで、ノノには嘲る気は無いだろうけれど。
「どうして? どうして先輩はキスしようとしたの? ノノにせんぱいの気持ちを教えて欲しいな?」
「それはっ……そのっ……言わないとだめ?」
「だ~め♡ せんぱいは、ノノのことをどう思ってるの? ほら……言って♡」
鈴の音のように軽やかな声が鼓膜をくすぐって、全身を捩りたい衝動に襲われる。
甘い吐息が鼻にかかって、思考にもやがかかったように難しいことが考えられなくなる。
見栄も、自尊心も、今は邪魔なだけ。全てを晒した方が、気持ちよくしてもらえる。
恥ずかしければ、恥ずかしいだけ。
情けなければ、情けないだけ。
「えっ……えっち……」
「……へぁ?」
「ノノ君とえっちなことがしたくてっ……きっ、キスしようとしてましたぁ……」
言った。言った。言ってしまった。ノノのおねだり通り、恥ずかしい本音を晒してしまった。
しかし、ノノの反応は僕の予想とは異なっていた。ずっと余裕ありげに微笑んでいたのに、急に顔が真っ赤になっていって――
「~~っ! せんぱいのへんた~い!!」
「えっ――」
突然の浮遊感が僕の身を襲って、あんなにも近かったノノとの距離が急速に離れていく。
ノノの言う通りにしたはずだったのに。甘くいじめてもらえると思っていたのに。
僕はノノに突き飛ばされ、隣の近藤君の机に抱き着くことになったのだった。




