【3-1】孤高の剣士と忍び寄る影
オーガロードを討伐した翌朝。 護は、昨日の激戦で心地よく軋む筋肉を感じながら目を覚ました。ベッドから起き上がると、自室に備え付けられた姿見に、新しい防具に刻まれた生々しい傷跡が映る。
「(すげぇ……本当に、戦ったんだな……! この傷跡、俺の勲章だ! 昨日のバトル、最高だったな!)」
仲間を守るために、無我夢中で戦った。その事実は、これまでのどんなトレーニングよりも、護の心と体を満たしていた。 階下の食堂に下りると、宿屋のおかみが「おはよう、護くん! お腹すいてるだろ?」と、山盛りの朝食を用意してくれた。 湯気の立つ黒パン、分厚く切られたベーコンの塩焼き、黄金色の黄身が輝く目玉焼き、そして具沢山の根菜スープ。 護は、まず黒パンをちぎって口に運んだ。
「(うおおおっ! このパン、外はカリッとしてるのに、中は驚くほどフワフワだ! 噛めば噛むほど、小麦の甘みがじわっと広がる! 最高かよ!)」
次に、ベーコンと目玉焼きを一緒に頬張る。
「(たまんねぇ! ベーコンの絶妙な塩気と香ばしい脂が、半熟の黄身と絡み合って、口の中で最強のタッグを組んでる! これぞ至福の味だぜ!)」
スープを流し込むと、野菜の優しい旨味が体中に染み渡った。護は、一心不乱に、そして至福の表情で朝食を平らげていく。 そんな護の元へ、『鋼鉄のグリフォン』の三人が訪れた。フィンの傷はまだ痛むようだが、顔色は良い。
「護殿、昨日は本当に世話になった」
リーダーのレオが、改めて深く頭を下げた。
「いや、いいって! 仲間なんだから当たり前だろ! ってか、フィン、もう大丈夫なのか?」
護が笑うと、レオは少し寂しげに、しかしきっぱりとした口調で言った。
「だからこそ、だ。俺たちは君に礼を言いに来た。そして、別れを言いに来た」
「……え? 別れって、どういうことだ!? なんでだよ!?」
「護殿、君は『卒業』だ」
ゲイルが、少し照れくさそうに言う。
「卒業?」
「ああ。実は昨夜、コーラルさんと相談したんだ。俺たちじゃ、君の力に追いつけない。君は、俺たちのようなCランクパーティーといる器じゃない、ってな」
◇
――回想・昨夜のギルド――
カウンターで、コーラルがレオたち三人と向き合っていた。
「護殿は、私たちが教えようとしたことの多くを、本能的に自然とこなしていました。索敵も、陣形の中での立ち位置も、まるで長年培ってきたかのように完璧です。実力も、もはや私たちと並ぶどころか、それ以上。このまま私たちと行動を共にすることは、護殿の成長を阻害しかねません。私たちは、彼を『卒業』させてあげたいのです」
レオは唇を噛み締める。
「本音を言うなら、護殿を正式な仲間として迎え入れたい。だが、それは、彼の未来の可能性を俺たちが縛ることに他ならない」
「足を引っ張りたくねえんだ。あいつはもっとデカい場所で戦うべきだ」
ゲイルの言葉に、フィンも頷く。
「……分かりました。では、ギルドとしては、磐座さんの『新人講習』は、あなた方との同行をもって『修了』と記録します。明朝、彼にそう伝えてあげてください」
コーラルは、三人の男気に敬意を表すように、深く頭を下げた。
――回想・了――
「……というわけだ。俺たちは、君に冒険者としての基礎を教えるという役目を果たした。これ以上は、君の成長の邪魔になるだけだ」
「……わかった。レオさん、ゲイル、フィン。短い間だったけど、ありがとな! 俺、お前らと会えてよかったぜ!」
護は仲間との初めての別れに少しだけ寂しさを感じながらも、彼らの誠意を真正面から受け止めた。
「おう! 達者でな、護! お前ならすぐにAランクだ!」
こうして、護の初めてのパーティー同行は、仲間からの温かいエールと共に、終わりを告げた。
◇
『鋼鉄のグリフォン』と別れた後、護は一人、マリーナの波止場で海を眺めていた。
「(連携、か……昨日のマンティコアの戦い、すごかったな……! レオたちが敵の動きを読んで、フィンが正確に仕留める……あれが、パーティー……!)」
昨日の戦いを思い返す。マンティコアを倒した三人の見事な連携。そして、自分がオーガロードと戦っている間、傷ついたフィンを守ろうとしたレオとゲイルの動き。一人ではできない戦い方。一人では守れないもの。
「(そうだ、俺は……俺自身のパーティーを作ればいいんだ! 俺がリーダーになって、みんなを守って、最強のパーティーを作るんだ!)」
仲間との連携の重要性と、仲間を守ることの尊さを知った護の胸に、「自分のパーティーを作り、仲間と共に最強を目指す」という、新たな目標が燃え上がった。
目的が決まれば行動は早い。護は再び冒険者組合の扉を開けた。
【コーラル視点】
また、あの人が来た。ギルドの扉が大きく開かれ、磐座護さんが入ってくる。たった数日で、彼はこのマリーナ支部で最も有名な冒険者になってしまった。『クラッシャー』『オーガロード殺し』……。彼の武勇伝は、日に日に大きく、そして荒唐無稽になっていく。
(ギルド長の言った通りだわ……。本当に、嵐を呼ぶ人……いつも疲労困憊になるけど、なぜか目が離せない……)
私が内心でため息をついていると、彼は一直線にカウンターへとやってきた。今日は一体、どんな突拍子もないことを言い出すのだろうか。
【護視点】
「コーラルちゃん! 俺、自分のパーティーを作ることにした! どうやったら仲間って集められるんだ?」
カウンターに身を乗り出して尋ねる護に、コーラルは一瞬呆れつつも、彼のまっすぐな目を見て、その成長を嬉しく思った。
「磐座さん、素晴らしい目標ですね! 仲間を集める方法はいくつかありますよ。一つは、あそこの依頼掲示板の横にある『パーティーメンバー募集掲示板』に自分の札を貼ること。もう一つは、このギルドにいる他の冒険者の方に直接声をかけること、ですね」
「なるほど! サンキューな、コーラルちゃん!」
護は早速、木札に「俺と組んで最強になろうぜ!脳筋歓迎!美少女ならもっと歓迎!」と書き殴り、掲示板に貼り付けた。
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