【2-5】嵐のような男
「はぁ……はぁ……よっしゃ! やった! 俺が……俺がオーガロードを倒したんだ!」
護が肩で息をしていると、レオとゲイルが駆け寄ってきた。
「フィン! 大丈夫か!」
レオが懐から上級の治癒薬を取り出し、フィンの口に流し込む。柔らかな光がフィンの体を包み、苦悶に歪んでいた表情が少し和らいだ。
「……っ、……かすり傷、だ……」
「よかった……! フィン、大丈夫か?」
フィンが弱々しくも憎まれ口を叩くのを見て、護は心の底から安堵のため息をついた。 レオが、護の前に深く頭を下げた。
「磐座……いや、護殿。君は、俺たちの命の恩人だ。フィンだけでなく、俺たち全員を救ってくれた。この恩は、言葉では返しきれない。本当に、ありがとう」
ゲイルと、体を起こしたフィンも、それに倣って頭を下げた。
「悪かったな、護。最初はただの脳筋野郎かと思ってたが、とんでもねえ。あんたは本物の英雄だ」
「……借りが、できたな」
仲間からの、初めての率直な感謝の言葉。護は照れくさそうに頭を掻いた。
「よせやい! 仲間が危なかったら、助けるのは当たり前だろ! 俺、戦士だからな! みんなを守るのが俺の役目だ!」
【コーラル視点】
夕暮れ時になり、ギルドの喧騒も少し落ち着いてきた頃、私はふと、今朝送り出した新人のことを考えていた。
(磐座さん、今頃どうしているかしら。『鋼鉄のグリフォン』のレオさんは面倒見の良い方だけど、あの規格外の人を相手にするのは大変でしょうね……。ちゃんと冒険者のイロハを叩き込まれていればいいのだけど……)
そんな心配をしていた、まさにその時だった。ギルドの扉が、勢いよく開け放たれた。 そこに立っていたのは、泥と血に汚れ、しかしどこか誇らしげな護さんと、彼に付き添うようにして、疲労困憊の『鋼鉄のグリフォン』の皆さんだった。リーダーのレオさんとゲイルさんが、ぐったりとしたフィンさんを両側から支えている。
(怪我人!? 何かトラブルが……!)
私が緊張に身を固めた次の瞬間、護さんがカウンターに駆け寄り、ドン、と重々しい音を立てて何かを置いた。それは、巨大な魔物の角だった。
【護視点】
「コーラルちゃん、見てくれ! Bランクのオーガロードも倒しちまったぜ! 俺、やったぞ!」
護が満面の笑みで胸を張る。コーラルは、血まみれの角と、重傷のフィン、そして護を交互に見て、完全に思考が停止した。
「えっ……! Bランクを、単独で……!? レオさん、一体何が……!?」
「ああ、コーラルさん、話を聞いてくれ! こいつは……」
レオが興奮気味に事の顛末を語ろうとしたのを、コーラルは受付嬢としての冷静さを取り戻して制した。
「報告は後で伺います! まずはフィンさんを医務室へ! 磐座さんは、その討伐部位を隣の買取所へお願いします!」
「おう! わかった!」
護が言われた通りに角を持って買取所へ向かう。入れ替わりに、興奮と畏怖が入り混じった表情のレオとゲイルがカウンターに詰め寄った。
「コーラルさん! あいつは一体何なんだ!」
「新人だなんて嘘だろう!? Bランクのオーガロードを、たった一人で……。あの強さは、間違いなくAランクに匹敵する!」
「そうだ! あいつがいなかったら、俺たちは今頃、全員死んでた。あいつは、俺たちの英雄だ!」
二人の報告は、興奮と畏怖がないまぜになっていた。コーラルは、その内容の重大さにゴクリと唾を飲み込み、ただペンを走らせるのが精一杯だった。
【ダリウス視点】
その日の夜、ギルド長の部屋の扉が叩かれた。
「ギルド長、磐座護さんの件、ご報告します」
入ってきたコーラルの顔は、まだ興奮と動揺の色を隠せずにいた。俺は彼女に椅子を勧め、静かに報告に耳を傾けた。Cランク依頼中の、Bランクモンスターの強襲。パーティー壊滅の危機。そして、新人である護が、たった一人でそのオーガロードを退けたこと。彼を『英雄』とまで称える、ベテランパーティーの言葉。
(やはりな……)
報告を聞き終えた俺は、口元に浮かぶ笑みを隠そうともせず、窓の外に浮かぶ月を見上げた。
(俺の見立て通り、ただのデカブツじゃねぇ。Bランクのオーガロードを初陣同然で……? しかも、仲間を守るために、か。面白い。面白いじゃねぇか!)
「……だから言ったろ、コーラル」
俺は、まだ事態を飲み込みきれていない様子のコーラルに向き直り、言った。
「あいつはただの新人じゃねえ。嵐を呼ぶ男だ。そして、嵐は退屈な海を面白くしてくれる」
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