【16-3】逆転の奇策と、芸術家への道
泣き疲れたセラフィーナをベッドで休ませた後、護、メル、カゲロウの三人は、部屋の隅で小声で作戦会議を再開した。空気は依然として重いが、そこには確かな「やる気」が満ちていた。
「さて、脳筋。さっきはずいぶんと大きなことを言ってたじゃないか。『連れ戻す』だの『ぶっ飛ばす』だの。それで、何か策でもあるんだろうな? あの要塞のような公爵邸に、どうやって乗り込むつもりだ?」
メルは腕を組み、護をじろりと睨みつけた。彼女は護が何か秘策を思いついたのだと、ほんの少しだけ期待していたのだ。 しかし、護はきょとんとした顔で首を傾げた。
「え? 策? そんなもんねえよ。正面から行って、ドーンと扉をぶっ壊して、悪い奴らをぶっ飛ばすだけだ!」
「この、大馬鹿者がーーーーーっ!!」
メルの怒声が、王都の朝に響き渡る。 彼女は護の脛を思い切り蹴り飛ばした。
「正面突破など、一度失敗した上に、警戒が最大になっている今、自殺行為に等しい! 少しは学習しろ! あの鎧騎士……アーサーの実力は、ボクたちの想像以上だ。まともにぶつかれば、今度こそ全滅するぞ!」
「いってぇ! 蹴ることねえだろ! だってよぉ……他に方法なんてねえだろ?」
護は足をさすりながら情けなく唸る。カゲロウも「今回ばかりは、力押しは通じんな」と冷ややかに同意した。 手詰まりかと思われた、その時。 護は、ふと昨夜の夜会での出来事を思い出した。
「……あ、そうだ! そういえば、夜会で変な爺さんに会ったんだよ。『ヴィンチ』って言ったかな? なんか俺の筋肉を見て『芸術だ!』とか叫んで、『アトリエに来い、モデルになってくれ』ってしつこくてさ」
その言葉に、メルが反応した。
「ヴィンチ……? まさか、君が言っているのは……天才画家、マエストロ・ヴィンチか!?」
メルは驚愕に目を見開く。その名前は、この大陸で生きる者なら誰もが知る、生きる伝説そのものだった。
「え、有名なの? 派手な服着た変な爺さんだったけど」
「有名も何も、彼の作品一枚で城が買えると言われるほどの巨匠だ! ……待てよ」
メルの脳内で、情報が急速にリンクしていく。 夜会の会場。そこに飾られていた数々の高価な美術品。そして、公爵の収集癖。
「マエストロ・ヴィンチは、王侯貴族を専門とする芸術家だ。フェルディナント公爵も、彼の重要な顧客の一人である可能性が高い……。そして、芸術家は、作品の納品やメンテナンスのために、屋敷への出入りを許可されることがある」
メルの瞳が、怪しく輝き始めた。
「もしかしたら……ヴィンチの作品を納品するという名目で、屋敷に潜入できるかもしれない……! 正規のルートで、堂々と正面から!」
「それだ! それ、いいじゃねえか!」
護がポンと手を打つ。それは、あまりにも突飛だが、唯一の活路だった。
「……本当に、お前は面倒と好機を同時に呼び込む男だな」
カゲロウは呆れたように、しかしどこか楽しそうに口元を緩めた。 護の「筋肉」が繋いだ、予期せぬ縁。それが、最強のセキュリティを突破する鍵となる。
「よし、早速そのヴィンチって人のアトリエに行ってみようぜ! モデルでもなんでもやってやる!」
「善は急げだ。行くぞ!」
三人は、王都の芸術家たちが集う地区にあるという、マエストロ・ヴィンチのアトリエへと向かう。 セラフィーナの涙を拭うため、そして囚われた英雄の魂を解放するため。 彼らの、二度目の、そして本気の潜入作戦が、今、始まろうとしていた。
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