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『Transients』〜異世界で筋肉無双してモテたい!〜  作者: NewSankin
第一章

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【16-1】傷だらけの夜明け

王都アウロラの裏路地にひっそりと佇む安宿。その一室には、夜明け前の冷たく湿った空気が澱んでいた。窓の隙間から忍び込む風が、灯されたばかりのランプの炎を頼りなげに揺らしている。


「……動くなと言っているだろう、脳筋。傷口が開けば、また縫い直しだぞ」


部屋の中央にある粗末なベッドの上で、メルが護の治療に当たっていた。 ボロボロになった礼服の上着は脱ぎ捨てられ、剥き出しになった護の岩のような肉体には、昨夜の激闘の爪痕が生々しく刻まれている。鎧騎士の大剣による深い裂傷、爆風による火傷、そして無数の打撲痕。それらは護がどれだけ体を張って仲間を守ったかの証左でもあったが、見る者には痛々しさしか与えない。 メルの小さな手が、消毒液をたっぷりと染み込ませた布で、慎重に傷口を拭っていく。その手つきは、いつもの憎まれ口とは裏腹に、驚くほど丁寧で、震える指先からは護を案じる心が痛いほど伝わってきた。


「へへ……わりぃな、メル。いてて……手当ありがとうな」


護は消毒液の染みる痛みに顔をしかめながらも、強がってへらりと笑って見せた。だが、その笑顔はすぐに曇り、心配そうな視線を部屋の隅へと向ける。


そこには、セラフィーナがいた。 宿屋の主人が貸してくれた毛布にくるまり、部屋の隅で膝を抱えて座り込んでいる。昨夜の華やかな夜会で見せた凛とした美しさは見る影もない。泥と煤で汚れたドレス、乱れた銀色の髪、そして何より、生気を失った瞳。彼女は小刻みに震えながら、虚空を彷徨う視線で、ここにはない「何か」を見つめ続けていた。 カゲロウは、彼女から少し離れた壁際で腕を組み、目を閉じて気配を消している。彼なりの不器用な見守り方なのだろう。


重苦しい沈黙が続く中、窓の外が白み始め、埃っぽい部屋を朝の光が照らし出した。 メルは最後の一針を縫い終えると、ほう、と息を吐き、昨夜の戦利品について言及するためにテーブルへと向かった。


「……それで、これが今回の『収穫』だ」


メルがテーブルの上に置いたのは、重々しい金属製のケースだった。書斎の隠し金庫から命からがら持ち出したものだ。 彼女が慎重に魔術的なロックを解除し、蓋を開ける。 プシュッという音と共に冷気が漏れ出し、その中には、禍々しい紫色の光を放つアンプルが一本、鎮座していた。


「……ッ」


護が息を呑む。それを見ただけで、肌が粟立つようなおぞましい気配が漂ってくる。 メルは眉間に深い皺を刻み、震える声で分析結果を口にした。


「間違いない。あのマリーナで戦ったキメラや、闇市場のグラックに使われた薬……それらよりも遥かに濃度が高く、魔力の密度が桁違いだ。おそらく、これこそがモルゴーの研究の到達点……『魔神薬』の完成品、あるいはそれに極めて近いものだろう」


状況証拠は揃った。フェルディナント公爵がモルゴーと深く繋がり、その研究に加担していることは疑いようがない。この薬一本のために、どれだけの命が犠牲になったのか。 護は悔しげに拳を握りしめた。 テラスでの戦闘、筒抜けだった潜入計画、そしてあの規格外の強さを持つ「最高傑作」。 彼らが知ってしまった真実は、あまりにも残酷で、救いのないものだった。

お読みいただきありがとうございます!


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★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。

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