【15-7】敗走の夜
「今だ! いくぞ、二人とも!」
護は、戦斧を背中に回すと、心を失ったセラフィーナを右腕に、メルを左腕に、米俵のように担ぎ上げた。
「ちょ、扱いが雑だぞ脳筋!」
「贅沢言うな! 舌噛むから黙ってろ!」
「カゲロウ、道を作れ!」
「承知!」
カゲロウが先行し、煙にむせて怯む兵士たちを斬り伏せて退路を切り開く。 護は二人を抱えたまま、猛牛のごとき突進でテラスの欄干を突き破り、下の庭園へとダイブした。
「逃がすな! 追えぇぇ!!」
公爵の怒号が響くが、夜の闇と複雑な庭園の地形が、彼らの逃走を助けた。
◆
王城の喧騒が遠ざかっていく。 どうにか追っ手を撒き、路地裏の暗がりに身を潜めた四人。 全員が満身創痍だった。
護は荒い息を吐きながら、腕の中で震えているセラフィーナを見下ろした。 彼女の瞳はまだ虚ろで、何かを拒絶するように固く閉じられている。
「……くそっ」
護は地面を殴りつけた。 助けに入ったはずが、何も解決できず、這う這うの体で逃げ出した。 公爵邸という巨大な鳥籠から、辛くも脱出に成功した三人。しかし、その代償はあまりにも大きかった。
仲間の一人は心を壊され、敵の正体は、彼らが想像していた以上に深く、そして邪悪だった。 王都の夜は、まだ明けない。
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