【15-3】仮面の下の素顔
テラスでは、護が新たに出現した巨大な鎧騎士と対峙していた。 その騎士が放つプレッシャーは、これまでの雑兵とは次元が違っていた。
「オラァッ!」
護が戦斧『岩砕き』を横薙ぎに振るう。 鎧騎士は、身の丈ほどもある大剣を軽々と操り、それを正面から受け止めた。
ガギィィィン!!
凄まじい火花が散り、衝撃波が周囲の窓ガラスを震わせる。護の巨体が、数歩後ずさった。
「(重っ……! こいつ、ただもんじゃねえ!)」
「ハハハ! 当然だ! それは、わたくしが選び抜いた『素材』で作ったのだからな!」
公爵の高笑いが響く。 護と鎧騎士の激しい攻防が続く中、セラフィーナは違和感を抱いていた。
(……あの騎士の動き。どこかで……?)
鎧騎士が繰り出す剣技。それは、単なる力任せの攻撃ではない。 無駄がなく、洗練され、そしてどこか優雅ささえ感じさせるその剣筋。 それは、王国騎士団の中でもごく一部のエリート、それも達人クラスの者にしか許されない『王家流剣術』の型そのものだった。
「な……なぜ、あなたがその剣を……!?」
セラフィーナの声が震える。 彼女の脳裏に、ある一人の人物の姿がフラッシュバックした。 優しく、強く、そして誰よりも正義を愛していた、敬愛する先輩騎士。
「あなたは何者なのです! 答えなさい!」
セラフィーナの悲痛な叫びに反応したのか、鎧騎士の動きがピタリと止まった。 騎士はゆっくりと、自らの兜に手をかけた。 ギィ、と錆びついたような音を立てて、兜が外される。
月明かりの下、その素顔が露わになった。 金色の髪。整った顔立ち。セラフィーナがよく知る、懐かしい顔。 だが、その瞳には光がなく、ガラス玉のように虚ろで、生気というものが完全に欠落していた。
「……アーサー、先輩……?」
セラフィーナの唇から、信じられない名前が漏れた。 アーサー・グライドウェル。 五年前の暴動で、民を守るために命を落としたはずの、彼女の英雄。
「嘘、ですよね……? あなたは、あの時、死んだはずじゃ……」
震えるセラフィーナを見下ろし、公爵が愉悦に歪んだ笑みを浮かべた。
「ああ、彼は確かに死んだとも。民という、愚かなもののためにね。だが、どうだ? 感動的だろう?」
公爵は両手を広げ、自分の「作品」を誇示するように言った。
「彼のその強靭な肉体、洗練された剣技……それを土に還すのはあまりに惜しい。だから、わたくしが拾ってあげたのだよ。魔導科学の粋を集め、彼を『最高傑作』の自動人形として蘇らせてあげたのだ! これこそが、資源の有効活用というものだよ!」
死者の冒涜。 魂の陵辱。 そのあまりにもおぞましい事実に、セラフィーナの心は音を立てて砕け散った。
「あ……あぁ……」
彼女の手から剣が滑り落ち、カランと乾いた音を立てた。 セラフィーナは、その場に膝から崩れ落ちた。戦う意志など、一瞬で消え失せていた。
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