【14-3】開演、そして芸術家の襲来
夜会が始まる直前。王城が見える路地裏で、四人は最終的な作戦を確認した。
「いいかい、作戦はこうだ」
メルが指を立てる。
「【陽動班】は、護とセラフィーナさん。君たちは夜会のメインフロアに潜入し、有力者たちと会話をしながら、フェルディナント公爵の注意を引きつけ、情報を探る。貴族であるセラフィーナさんの顔なら、公爵も無下にはできないはずだ」
「おう!」
「【潜入班】は、ボクとカゲロウだ。二人が表舞台で注目を集めている隙に、裏口から公爵の私室や書斎に忍び込み、決定的な『証拠』を探す」
「了解だ。……行くぞ」
カゲロウが短く答え、闇に溶けるように姿を消した。メルもそれに続く。 護とセラフィーナは顔を見合わせ、頷き合うと、煌びやかな光が溢れる王城の正門へと歩き出した。
◆
「ヴァイスリッター侯爵令嬢、セラフィーナ様! 並びに、護衛のマモル様!」
王城の大広間。 執事の声が響き渡り、重厚な扉が開かれる。 天井の巨大なシャンデリアが、着飾った数百人の貴族たちを照らし出し、優雅なワルツの調べが流れている。
護とセラフィーナが入場すると、会場の視線が一斉に二人に集中した。 凛とした美貌の女騎士と、その隣に立つ、礼服の上からでも分かるほどの圧倒的な肉体を持つ巨漢。その組み合わせは、異質でありながら、目を離せない強烈な存在感を放っていた。
「(うわぁ、みんな見てるな……緊張しねえけど、飯が食いてえ)」
「(護殿、堂々としていてください。今夜のあなたは、わたくしのパートナーなのですから)」
セラフィーナにエスコートされ(本来は逆だが)、護は会場を進む。 すぐに、何人かの貴族が挨拶にやってきた。
「これはこれはヴァイスリッター隊長。今宵は一段とお美しい」
「ありがとうございます、男爵」
「そちらの屈強な方は?」
「わたくしの護衛です。先日のスタンピードで多大な功績を上げた、冒険者の……」
「おう、俺は護だ! よろしくな! あんたも、なかなか良い筋肉してるじゃねえか! 鍛えてるのか?」
護がいきなり貴族の肩をバシバシと叩く。 セラフィーナが「ひっ」と息を呑むが、言われた貴族の中年男性は、意外にも満更でもなさそうな顔をした。
「ほ、ほう? 分かるかね? 実は最近、乗馬を始めましてな……」
「分かるぜ! その大胸筋の張り、ただの脂じゃねえ!」
護の奇行――もとい、フレンドリーすぎる態度は、予想外の反応を引き起こした。堅苦しい社交辞令に飽きていた貴族たちが、この「野性味あふれる珍客」に興味を持ち始めたのだ。 結果として、彼らの周りには人だかりができ、最高の「陽動」となっていた。
その時だった。 人垣を割り、派手な紫色のベルベットの服を着た、初老の男がずいっと護の前に躍り出てきた。長い白髪を振り乱し、その目は怪しく輝いている。
「ブラボー!!」
会場中に響く大声。男は護の手を取り、熱っぽい視線を送った。
「なんと完璧な肉体美! 神が創造した、最高の芸術品だ! 大胸筋と広背筋のバランス、上腕二頭筋の隆起、そして何よりこの……生命力! 素晴らしい!」
「え? あ、どうも?」
「我が名はマエストロ・ヴィンチ! しがない画家だ。若者よ、ぜひ、私の新作のモデルになってくれたまえ! 君を描きたい! いや、描かねばならないという使命感に燃えている!」
セラフィーナが驚愕する。
(この方は……当代随一の芸術家と名高い、マエストロ・ヴィンチ!? 気難しくて有名なあの方が、なぜ護殿に……?)
「モデル? よく分かんねえけど、じっとしてればいいのか? それならいいぜ!」
「おお! 感謝する! では後日、必ず私のアトリエにお越しください! 君という素材を、永遠に残してしんぜよう!」
ヴィンチは嵐のようにまくし立て、固い握手を交わすと、満足げに去っていった。 護は「変わったじいさんだな」と首を傾げるだけだったが、この出会いが後に彼らを助けることになるとは、まだ誰も知らなかった。
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