【14-2】ドレスと筋肉の不協和音
数時間後。王都でも指折りの高級仕立て屋。 作戦決行に向けた準備が進められていたが、早々に深刻な問題が発生していた。
「うぐぐ……く、くるしい……! 肩が……背中が……はじけちまう!」
試着室のカーテンの向こうから、護の悲鳴が聞こえてくる。 店員たちが青ざめた顔で、メジャーと生地を抱えて走り回っていた。
「だ、ダメです! お客様の筋肉量が規格外すぎて、既製品の最大サイズでも入りません!」
「背中の縫い目が弾けます! 誰か、特大サイズの生地を持ってきて! あと予備のボタンも!」
護の鍛え上げられたマッスルボディは、繊細な貴族の礼服という枠組みを拒絶していた。鎧なら特注で作れたが、フォーマルな礼服となると勝手が違う。
「はぁ……まさか、ここが最大の難関になるとは」
待合室で、セラフィーナが頭を抱える。 見かねたメルが、ため息交じりに立ち上がった。
「仕方ない。ボクがやるよ」
メルは試着室に入ると、携帯用の錬金術キットを取り出した。 生地の繊維構造を一時的に変化させ、伸縮性と耐久性を強化する術式を施していく。
「動くなよ、脳筋。……よし、これで多少の動きには耐えられるはずだ。ただし、全力で力こぶを作ったら弾け飛ぶからな」
数十分後。 ようやく仕立てが終わり、護が試着室から出てきた。 濃紺のタキシードに身を包んだその姿は、蝶ネクタイが首の筋肉に埋もれそうになっているものの、意外にも様になっていた。野性味あふれる巨体がフォーマルな服に包まれることで、独特の迫力を醸し出している。
「ふぅ、やっと終わったか。首元がきついぜ……お?」
護が顔を上げると、そこには別のカーテンから出てきたセラフィーナが立っていた。 いつもの無骨な鎧姿ではない。夜会用のドレスに身を包んだ彼女の姿に、護は言葉を失った。
銀糸が織り込まれた深い青色のドレスは、夜空のように美しく、彼女の白銀の髪と透き通るような白い肌をより一層引き立てている。背中は大胆に開いており、鍛え上げられたしなやかな筋肉のラインが、健康的な色気を放っていた。
「ど、どうでしょうか……? あまり、こういう格好は好きではないのですが……」
セラフィーナが、恥ずかしそうに頬を染めて俯く。
「うおお……! すげぇ……!」
護の語彙力が消滅した。
「セラフィーナちゃん、鎧じゃなくても、めちゃくちゃ綺麗じゃねえか……! 本物のお姫様みたいだぞ! 見違えたぜ!」
真っ直ぐな称賛。 セラフィーナの顔が、さらに赤く染まる。
「そ、そうですか……? ありがとうございます……」
二人が見つめ合い、いい雰囲気になりかけたその時。 隣から、ぐいっと護のジャケットの裾が引かれた。
「おい、脳筋。作戦だということを忘れるな。鼻の下を伸ばして浮かれていると、足をすくわれるぞ」
正装(といってもサイズの合わない子供用スーツ)に着替えたメルが、ジト目で護を睨みつけていた。
「わ、分かってるって! 褒めるのも大事なコミュニケーションだろ!」
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