【12-7】解き放たれた悪意
戦いが混乱を極める中、バロン・ガイツは舌打ちをした。 護に押されているグラックを見限り、彼は懐から禍々しい紫色の液体が入った注射器を取り出した。 それは、ドクター・モルゴーから提供された、未完成の「魔神薬」の試作品だった。
「使えん奴だ。……せめて、肉壁として役に立て」
ガイツは、隙を見てグラックの背後に近づくと、その首筋に容赦なく魔神薬を注入した。
「ぐ……がっ……あ、あがががががっ!!」
グラックが絶叫する。 その肉体が異常に膨張し、皮膚が裂け、獣のような体毛と、歪な角が生え始める。 理性を失い、破壊衝動の権化と化した「魔獣グラック」が、誕生した。
「グルルルルァァァァッ!!」
咆哮一閃。 その衝撃波だけで、周囲の騎士たちが吹き飛ばされる。 最初の標的となったのは、最も近くにいたセラフィーナだった。
「なっ……!?」
彼女が咄嗟に《ホーリー・ウォール》で光の障壁を展開する。 しかし、魔獣化したグラックの爪の一撃は、障壁をガラスのように粉砕した。
「きゃああっ!」
体勢を崩したセラフィーナに、魔獣の巨大な爪が振り下ろされる。 死を覚悟し、彼女が目を閉じた、その瞬間。
ズドォォォォン!!
凄まじい轟音と共に、横合いから飛び込んだ影が、魔獣の側面にタックルをかまし、その一撃を無理やり逸らした。
「騎士のお嬢さん! ぼーっとしてっと、死ぬぜ!」
目を開けたセラフィーナの前に、岩のような背中があった。 磐座 護。 彼は魔獣とセラフィーナの間に割って入り、戦斧を構えて仁王立ちしていた。
「こいつはもう、ただの人間じゃねえ。……気合入れろよ、お嬢さん!」
「あ……」
セラフィーナは、その背中に、かつて自分を庇って散った先輩騎士の姿を重ねた。 規律も、立場も関係ない。ただ目の前の命を守るために動く、純粋な力。
「……分かりました。ですが、これはあくまで、この場を乗り切るための一時的な協力関係です。勘違いしないように!」
セラフィーナは震える足に力を込め、剣を構え直した。
「へへっ、それで十分だ!」
護がニカっと笑う。 それぞれの正義を掲げる、歪な共同戦線。 王都の闇の中で、彼らの本当の戦いが始まろうとしていた。
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