【2-2】鉄と魂の鍛冶屋
コーラルに紹介された武具屋は、ギルドからほど近い、ひときわ煤けた建物だった。入口には『鉄魂鍛冶』と書かれた、無骨な木の看板が掲げられている。
【店主視点】
ちっ……またか。俺は店の奥から、ガラス窓越しに通りを眺めてため息をついた。 今、店の前を通り過ぎていった若い冒険者パーティー。彼らが腰に提げているのは、揃いも揃って軽そうな片手剣と、マギア共和国製の『魔道式機械銃』だ。便利で、軽くて、誰でもそれなりに扱える。それが今の流行り。戦斧や戦鎚のような、使いこなすには相応の筋力と技術が要る無骨な武器に見向きもしやがらねぇ。 昔は違った。デカくて重い武器こそが『漢の武器』だった。それを振り回す豪傑こそが、真の冒険者として尊敬されたもんだ。だが、時代は変わった。今の主な収入源は、流行りの剣や防具の修理ばかり。自慢の斧や鎚は、埃を被って店の飾りになっている。
(そろそろ潮時かもしれねぇな……)
俺も意地を張ってねぇで、ドワーフの誇りを捨てて、あの気に食わねぇ魔道銃でも仕入れてみるか……。そんな弱音が頭をよぎった、その時だった。
ガラン、と店の扉が大きく開き、熊と見紛うほどの巨漢が入ってきた。 俺の目が、カッと見開かれる。 なんだ、あの若者は。岩を削って作ったような、とんでもねぇ肉体だ。近頃の若者には珍しい、本物の『戦士』の器が、そこにいた。俺の心の炉に、消えかけていた火が再び熾るのを感じた。
「いらっしゃい。……兄ちゃん、何を探してる?」
「武器と防具を買いに来た! 戦士としての武器と防具が欲しいんだ! なんか、こう……重い一撃が出るような武器が良い! 俺の筋肉に合うようなやつを頼むぜ!」
若者の、曇りのない真っ直ぐな言葉。俺の心臓が、まるで鍛冶場の鞴のように激しく脈打った。
「……よく来たな、兄ちゃん!!」
俺はカウンターを乗り越えんばかりの勢いで、若者の前に立った。
「お前さんのための武器も防具も、ここにはある! 俺に任せろ!」
【護視点】
店主はドワーフだろうか。背は低いが、その腕は俺と同じくらい太く、全身が鋼の塊のようだった。彼はやたらと上機嫌に、奥から次々と武器や防具を引っ張り出してくる。
「兄ちゃんほどの体格なら、中途半端なモンじゃすぐに壊れちまう! こいつを見な! 俺が打った特製のプレートメイルだ! ドラゴンリザードの革を下地に使ってるから、見た目より動きやすいぜ!」
「うおおおお! すげぇ! これなら俺の攻撃も受け止められそうだぜ! ってか、ドラゴンリザードって何だ?」
「こっちの籠手もどうだ! 分厚い鉄板だが、関節部分は鎖帷子で繋いでるから、動きを殺さねぇ!」
「おお! これは動きやすそうだな! さすがドワーフの親父だ! 俺の筋肉をよく理解してるぜ!」
店主の熱のこもった説明を聞きながら、護は武器が並べられた棚に目をやった。その中で、一際巨大で、鈍い輝きを放つ両手持ちの戦斧が、護の目を釘付けにした。 護は吸い寄せられるようにそれに近づき、手に取った。ズシリ、と腕に伝わる圧倒的な重量感。常人であれば持ち上げることすら困難であろう重さだが、護にとっては、まるで自分の体の一部であるかのようにしっくりと馴染んだ。
「お、兄ちゃん、目が高いな! そいつは『岩砕き(がんくだき)』! 俺の会心作でな、高純度の鉄鉱石を何度も何度も打ち延ばして鍛え上げた逸品だ! その重量が生み出す一撃は、並の鎧なら中身ごと叩き潰しちまう! 重心のバランスも完璧で、見た目によらず……」
「(すげぇ……この重さ……この感触…… これだ! 俺の求めていた武器はこれだ!)」
店主が聞いてもいないのに熱心に説明してくれるが、その言葉はほとんど護の耳に入っていなかった。
「これにする! 親父! これ、いくらだ? 俺、これ買うぜ!」
護の即決に、店主は一瞬呆気にとられた後、満面の笑みを浮かべた。
「そうこなくっちゃな!」
その後は、店主の言われるがままに、護の巨体に合うように調整された防具一式を買い揃え、護は初めての買い物を終えた。店の外まで見送りに来た店主は、いつまでも見えなくなるまで護に手を振っていた。
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