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『Transients』〜異世界で筋肉無双してモテたい!〜  作者: NewSankin
第一章

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【2-1】戦士の第一歩は装備から

夜が明け、海洋都市マリーナが朝の柔らかな光に包まれる頃、一人の巨漢が港沿いの道を走っていた。  磐座 護だ。  彼の世界での生活は、元の世界で送っていたものと何ら変わりなく、早朝のランニングから始まる。潮風が汗ばんだ肌に心地よい。カモメの鳴き声と、遠くで鳴らされる出航を告げる鐘の音が、新しい一日の始まりを告げていた。


「よっ! おっちゃんたち、今日も大漁か! 朝から元気いっぱいだな!」

「おう、マモルの兄ちゃん! 朝から元気だなぁ! お陰でこっちも目が覚めるぜ!」


 護が声をかけると、網の手入れをしていた屈強な漁師たちが、歯を見せて豪快に笑う。昨日、街の屋台でその規格外の食いっぷりを披露して以来、護はすっかり港の顔なじみとなっていた。


「(さて、と……)」


 一通りのランニングと、波止場に置いてあった船の碇を数回持ち上げるという即席の筋力トレーニングを終えた護は、汗を拭いながら思考を巡らせる。


「よっしゃ! 今日も筋肉が喜んでるぜ! この碇、結構重いな! 良いトレーニングになったぜ!」 「(この世界の飯はうまいし、バルドの親父もダリウスのギルド長も面白い。昨日もらった金はまだたっぷりあるし……今日は何をしようかなぁ……そういえば、コーラルちゃん、可愛いかったなぁ……)」


 彼の脳裏に、太陽のような明るい笑顔が魅力的な、ギルドの受付嬢の姿が浮かんだ。


「(そうだ、冒険者組合ギルドに行こう! コーラルちゃんに挨拶して、何かスゲー依頼がないか聞いてみよう! 美少女にモテるためには、実績を積むのが一番だ!)」


 目的が決まると、護の足取りは途端に軽くなった。彼は一路、冒険者組合を目指して走り出した。


          ◇


 朝のギルドは、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。数人の冒険者が依頼書を眺めている程度で、護はまっすぐに受付カウンターへと向かう。


【コーラル視点】


 朝のギルドの穏やかな時間は、私にとって一日の中で数少ない安らぎの時だ。  しかし、その安らぎは、ギルドの大きな扉が、以前聞いたことのある、軋む寸前のような力強い音を立てて開かれたことで終わりを告げた。私の笑顔が、ほんの一瞬だけ凍り付く。


(来ました……! 磐座護さん……!)


 冒険者たちの間では、もう『クラッシャー』なんて物騒なあだ名で呼ばれ始めている、昨日の嵐のような新人。私はプロの笑顔を顔に貼り付け、内心で迫りくるであろう規格外の言動に備えた。


「コーラルちゃん、おはよー! 今日も可愛いな!」

「ひゃっ!?」


 分かっていたはずなのに、その太陽のように明るく、そして大砲のようにやかましい声に、私の肩は大きく跳ねてしまう。


「い、磐座さん……おはようございます。朝からお元気ですね……」

「おう! 絶好調だぜ! ってか、早くSランクになりたいんだ! 何か強そうな魔物を倒す依頼はないか? ソロでバリバリ活躍したいんだ!」


 やっぱり! 私は頭を抱えたくなった。彼の目は、一点の曇りもなく、純粋な向上心で輝いている。だからこそ、たちが悪い。私は内心で深呼吸を一つすると、申し訳ない気持ちを表情に乗せて口を開いた。


「お気持ちはとてもよく分かるのですが……。ギルドの規則で、原則として木製プレートの冒険者の単独ソロでの活動は禁止されているんです」


 護が驚きの声を上げると、コーラルは申し訳なさそうに頷いた。


「え、そうなのか!? そんな規則があったのか! 知らなかったぜ!」

「はい。特に磐座さんは、まだ実績のない木製プレートの仮ランクですので……。まずはどなたかのパーティーに同行して、冒険者としての経験や知識、連携などを学んでいただくのが決まりになっています」


 コーラルは説明しながら、護の服装に改めて気づいた。昨日と同じ、ボロボロになった学ラン姿。武器も防具も見当たらない。


「それと、磐座さん……。昨日もそうでしたが、武器や防具はどうされたんですか? まさか、素手で戦うおつもりではありませんよね?」

「え? 武器なんて、その辺に落ちてる頑丈なもんを使えばいいだろ? この前の狼も、木の棒一本でぶっ飛ばしたぜ!」

「だめです!」


 きっぱりとした強い口調に、護は思わずたじろいだ。


「冒険者にとって、武具は自身の命を守るための最低限の備えです! それに、そんな格好では、同行させてくださるパーティーも見つかりません。……分かりました。磐座さんに合いそうなパーティーはこちらで探しておきますから、まずは装備を整えてきてください! この先の通りに、腕利きのドワーフの職人さんがやっているお店がありますから! 装備が整うまではパーティーを紹介しませんからね!」

「ええーっ!? マジかよ……! わかった……わかったよコーラルちゃん……! 装備、整えてくるぜ! ってか、俺の格好、そんなに変か? これが俺の正装なんだけど……」


 半ば叱られるような形で、護はギルドを後にすることになった。

お読みいただきありがとうございます!


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★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。

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