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『Transients』〜異世界で筋肉無双してモテたい!〜  作者: NewSankin
第一章

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【1-3】到着!マリーナ支部!

海洋都市マリーナは、護の想像以上に活気に満ち溢れていた。  

潮の香りと、魚の焼ける香ばしい匂いが混ざり合い、鼻腔をくすぐる。様々な獣の耳や尻尾を生やした人々(獣人)や、尖った耳を持つ美しい人々(エルフ)が楽しそうに往来している。  

その開放的な雰囲気に、護の心は高鳴った。


 教えられた通り、港の一番大きな建物――冒険者組合(ギルド)の扉を、護は勢いよく開けた。


          



【コーラル視点】


 いつものように、ギルドの中は昼間から酒と汗の匂いで満ち、荒くれ者たちの喧騒が響いている。  

依頼書(クエストボード)の前では、次の仕事を選ぶ者たちの真剣な目が光る。これが、冒険者組合マリーナ支部の日常だ。  

しかし、今日、その日常は大きな木の扉が開かれる音と共に、破られることになった。


 扉の向こうに現れたのは、人間……というより、もはや小柄な巨人(トロル)と見紛うほどの巨漢だった。  

見慣れない黒い詰襟の服は、その異常な筋肉量に耐えきれず、はち切れんばかりになっている。屈強な冒険者たちでさえ、彼が通る道をするりと開けてしまうほどの威圧感だ。


(うわっ……! な、何この人……! また厄介そうな人が来たなぁ……)


 私は内心で警報を鳴らしつつも、顔には完璧な営業スマイルを貼り付ける。それが受付嬢、コーラル・リーフのプロフェッショナルというものだ。  

しかし、その巨漢は、私がこれまで対応してきたどの新人とも違っていた。  

彼は、周りの視線など全く気にも留めず、目をダイヤモンドのように輝かせながら、一直線に私のカウンターへと向かってきたのだ。その歩みだけで、頑丈なはずの床板がミシミシと軋んでいる。


【護視点】


 カウンターにいたのは、太陽のような明るい笑顔が魅力的な、オレンジ色の髪をポニーテールにした少女だった。


「(か、可愛いーっ! いきなりヒロイン候補発見! 俺、このギルドで頑張るぞ! よっしゃ! 俺のモテ期、絶好調だぜ! この子の笑顔、俺が守ってやる!)」


 護は、彼女に張り切って冒険者登録を申し込んだ。


「お姉さん! 俺、冒険者になりたいんだ! 登録、お願いするぜ! 世界最強の冒険者になって、この世界を救ってやるんだ!」

「は、はい! 冒険者登録ですね! ようこそ、冒険者組合マリーナ支部へ!」


 その巨体と勢いに、コーラルは明らかに少し引いていたが、プロフェッショナルな笑顔で応対する。


「では、こちらの用紙にご記入をお願いします。お名前と、何か戦闘のご経験などは?」 「名前は磐座護だ! 戦闘経験は……己の筋肉の限界との戦いなら毎日やってるぜ! あと、さっき森で変な狼の群れをぶっ飛ばしてきた!」

「磐座護さんですね。わたくし、こちらの受付を担当しております、コーラル・リーフと申します。以後お見知りおきを」


 コーラルは丁寧にお辞儀をすると、護の申告内容を真面目な顔で反芻する。


「冒険者組合(ギルド)は、世界中の困り事を解決する冒険者たちの互助組織です。依頼の斡旋から、情報提供、魔物の討伐、治安維持まで、多岐にわたる活動をしています。そして、冒険者には実力に応じてランクが定められています」


 コーラルは流れるような口調で説明を続ける。


「ランクはFからSまであり、Fランクは新人冒険者、G、E、Dと上がり、Cランクからは本格的なパーティー活動が推奨されます。Bランク以上になると、国から直接依頼が来るような実力者と認められ、Aランクは国をも揺るがす存在。そしてSランクは……まさに伝説級の冒険者です。護さんが冒険者になった場合ですと、一番下の仮ランクですので、まずは実力認定からですね」


 一通りの説明を終えると、彼女は手元の書類に目を落とした。


「……それで、戦闘経験は、ええと……狼の群れを、ですね。承知しました。では、ご希望の専門分野などはございますか? 例えば戦士とか、魔法使いとか……」

「うーん、専門分野か……」


 護は巨大な腕を組み、真剣に悩む素振りを見せた。


「俺、女の子にモテる最強の冒険者になりたいんだけど、どういうのがいいかな、コーラルちゃん? やっぱ、女の子は強い男が好きだろ? でも、優しさも大事だよな? どっちも兼ね備えてるのが一番だ!」

「モテる、ですか……」


 真正面からの、あまりにも純粋な質問に、今度こそコーラルのプロフェッショナルな笑顔が引きつった。  彼女は少し困ったように眉を寄せたが、すぐに気を取り直し、プロの受付嬢として彼の体躯と先ほどの申告内容を勘案する。


「そ、そうですね……護さんのその素晴らしい体格とかを考えると、最前線で味方を守る『戦士(ウォリアー)』なんかどうですか。屈強な戦士が仲間を守る姿は、とても……その……素敵だと思いますよ」

「戦士! いいな、それ! 響きが強そうだ! それに、女の子を守る戦士か……最高にモテそうじゃねえか! よし、決めた! 俺は最強の戦士になる! コーラルちゃん、ナイスアドバイスだぜ! もっと鍛えて、絶対みんなを守れるようにするからな!」


 護はコーラルの言葉に目を輝かせ、力強く宣言した。


「(決まってよかったです……)素晴らしい心意気ですね! では、登録には実力を示すか、どなたかの推薦状が必要になりますが……」

「お! そういうことならうってつけのものがあるぜ! ちょっと待っててくれよな、コーラルちゃん! すぐに持ってくるぜ!」


 そう言って、護は一旦ギルドの外に出ると、ズリズリと何かを引きずる音を立てて戻ってきた。  彼が引きずってきたのは、手配書の『スカーファング』の死骸だった。  ギルド内が、どよめく。


「おい、あれって……Bランクパーティーでも苦戦するってやつだぞ……」

「マジかよ、あれを新人が一人で? 嘘だろ……剣でも魔法でもない、丸太で殴り殺したみたいな跡だぞ……」


【コーラル視点】


 目の前に転がされた、おぞましい魔物の死骸。  それは間違いなく、高額な討伐依頼が出ていた特殊個体『スカーファング』。しかも、その倒され方は尋常ではない。斬り傷や魔法の痕跡はなく、まるで巨大な力で何度も叩き潰されたかのような、凄惨な状態だった。


(この人……本当に一人で……? ただの筋肉馬鹿じゃない……本物の、規格外の何かだわ……! 恐ろしいけど、この強さ……すごい……!)


 私の背筋を、ぞくりとした悪寒と、それ以上の興味が駆け巡った。


「じ、実力は十分すぎるほどです! ですが、規定ですので、こちらの魔力水晶でパワー測定をお願いします! 鑑定装置の前に立って、魔力水晶を握ってください。この魔力水晶は、あなたの内在する魔力や、これまでの経験、そして、もし犯罪歴などがあればそれらも反映され、冒険者としての適性や初期ランクが査定されます。犯罪歴がある場合は、冒険者にはなれませんので、ご注意ください」


 震える声を必死で抑え、私は鑑定装置を指し示した。もはや、この人が何者なのか、確かめずにはいられなかった。  彼が自信満々に頷き、水晶を握りしめた、その瞬間――


 バキィィィン!!


 ドワーフ製の頑丈なはずの鑑定装置が、まるでガラス細工のように木っ端微塵に砕け散った。  

ギルドが、水を打ったように静まり返る。私の思考も、完全に停止した。次の瞬間、


「「「えええええええええええええ!!!」」」


 絶叫が冒険者組合の外まで響いた。


          



「なんだなんだ、騒がしいな!」


 冒険者たちがモーゼの海割れのように道を開ける中、姿を現したのは、片目に眼帯をした、港のクレーンよりも屈強そうな海の男。マリーナ支部のギルド長、ダリウスだった。  

ダリウスは、無残に壊れた装置の残骸と、その前に立つ護を見比べると、怒るどころか腹を抱えて大笑いした。


「ガッハッハ! とんでもねぇパワーのデカブツが来たもんだ! 気に入った! お前、なんで冒険者になりてぇんだ?」

「女の子にモテたいからです! 世界中の美少女を俺の筋肉で守るために、最強の冒険者になるぜ!」


 ダリウスはさらに豪快に、涙を流しながら笑った。


「面白い! 実に面白い! 女にモテてぇってのは、海の男がデカいお宝を追うのと同じくらい立派な動機だ! よし、合格だ! お前を冒険者として登録してやる!」


 こうして、護は念願の冒険者プレート(仮ランクを示す木製)を受け取った。  周りの冒険者たちは、彼のことを『クラッシャー』と呼び始めたが、本人は全く気付いていない。


 護がプレートを手に喜んでいると、コーラルが少し困ったような、それでいて事務的な笑顔で告げた。


「おめでとうございます、磐座さん。スカーファングの討伐報酬ですが、ギルドの隣にある魔物買取所でお支払いしますので、そちらに死骸を運んでください。鑑定装置の弁償代は、そこから引かせていただきますので……」

「おう! わかったぜ! 弁償代か……ま、仕方ねぇな! 俺のパワーが凄すぎたってことだな!」


          



 護がスカーファングの死骸を引きずって買取所に入ると、そこは血と獣の匂いが混じった、活気のある仕事場だった。巨大な肉塊が吊るされ、屈強な男たちが大きな刃物で手際よく魔物を解体している。


「へい、兄ちゃん。そいつはまたデカい獲物だな」


 カウンターの奥から現れたのは、ダリウスにも劣らない筋骨隆々とした、白髪混じりの髭を蓄えた初老の男だった。その腕は護に負けず劣らず丸太のように太い。


「こいつ、スカーファングっていうんだと! 俺が倒したんだぜ! すごいだろ! 俺の筋肉でぶっ飛ばしたんだ!」

「ガッハッハ! 威勢がいいな! ギルドでの大騒ぎ、こっちまで聞こえてたぜ。俺はバルド。ここの長だ。ダリウスの奴とは長い付き合いでな」


 バルドと名乗った男は、スカーファングの傷を一瞥すると、興味深そうに護を見た。


「こりゃまた豪快な殺り方だ。魔法でも剣でもねえ。まるで巨人に踏み潰されたみてぇだな。……で、坊主、なんで冒険者なんぞになった? 金か? 名誉か?」

「女の子にモテたいからです! 可愛い女の子を守れるような、最強の冒険者になりたいんだ!」


 護が胸を張って答えると、バルドは一瞬きょとんとした後、ダリウスと同じように腹を抱えて笑い出した。


「気に入った! 実にいい動機だ! だがな小僧、女にモテてぇなら、まずは金と知識が必要だ。冒険者になったからにゃあ、魔物のことを覚えとけ」


 バルドは、部下たちがスカーファングを解体するのを眺めながら、護に魔物の知識を叩き込んでくれた。


「へぇ! 魔物にもランクがあるのか! 知らなかったぜ! ってか、FランクとかBランクとか、どういう意味なんだ?」

「いいか、魔物にはランクがあってな、価値も危険度も全然違う。森で会うようなゴブリンだのスライムだのは、Fランクだ。討伐証明くらいにしかならねぇ。だが、このスカーファングはBランク級の危険度を持つだけあって、牙も爪も毛皮も武具の素材として一級品だ。特に心臓近くにある『魔石』は、魔法の触媒として高く売れる」

「へぇ! じゃあ、全部の魔物が金になるのか? それはすげぇな! 俺も金稼いで、美味しいものいっぱい食うぜ!」

「そうでもねぇ。例えば、この辺の岩場にいるマンティコアは、Cランクだが気性が荒くて尾には猛毒がある。危険な割には、素材の価値はそこそこで、割に合わねぇ仕事だ。初心者が手を出すもんじゃねぇ」

「食える魔物とかもいるのか?」

「おうよ! そこが一番大事なとこだ。こいつの肉は筋張っててマズいが、ロック・リザードの尻尾の肉は絶品だ。川辺にいるランド・フィッシュも塩焼きにするとうめぇ。逆に、空を飛んでるワイバーンは竜の仲間だが、肉は臭くて食えたもんじゃねえ。そういう見極めができなきゃ、野宿で飢え死にする羽目になるぞ。この辺りの海には、時々シーサーペントなんて化け物も出る。あれに会ったら、絶対にちょっかい出すなよ。船ごと呑まれるからな」


 バルドの話は、護にとって全てが新鮮で、目を輝かせながら聞き入った。


「よし、査定完了だ。弁償代を差し引いても、こんだけある。大事に使えよ、マモルの小僧」

「おう! ありがとう、バルドの親父! 大事に使うぜ!」


 バルドから渡されたずっしりと重い革袋。それが、護がこの世界で初めて、己の力で稼いだ金だった。


          



 金貨の入った袋を大事に懐にしまい、護は宿を探してマリーナの街を歩き始めた。活気ある港町は、見るもの全てが珍しく、特に護の興味を引いたのは、様々な食べ物を売る屋台だった。


「お、なんだこれ! すげぇいい匂い! クンクン……! うおおお! 魚の焼ける匂いだ! 最高じゃねえか!」


 護は巨大な魚を丸ごと串焼きにしている屋台に引き寄せられた。


「おやじ! これ一本くれ! ってか、この魚、デカすぎだろ! 一人で食いきれるかな……いや、余裕だな!」

「へ、へい!」


 屋台の店主は、護の巨体と威圧感に一瞬怯んだが、護が差し出した金貨を見て、慌てて魚を渡した。護は大きな口で豪快に魚にかぶりつく。


「うめぇーっ! なんだこれ! 外はパリパリなのに、中はフワフワだ! 塩加減も最高! うおおおお、止まらねぇ!」


 その屈託のない、子供のような笑顔と見事な食いっぷりに、店主は思わず相好を崩した。


「はっはっは! 兄ちゃん、いい食いっぷりだ! こいつはサービスだ、持ってきな!」


 それを皮切りに、護は次々と屋台を巡った。最初は遠巻きに見ていた周りの人々も、彼のあまりの美味そうな食べっぷりと、時折見せる人懐っこい笑顔に、次第に警戒を解いていった。


「兄ちゃん、うちの串焼きも食っていきな! 筋肉にいいぜ!」

「マジか! 筋肉にいいなら食うぜ! ありがとうございます、おっちゃん!」

「おにいさん、お肉が好きかい? この猪の丸焼き、美味しいよ!」

「おう! 肉なら大好きだぜ! 全部くれ! もちろん、全部食うぜ!」

「このジュースは俺のおごりだ! 飲みっぷりもいいな! あんたみたいな若者がいると、街が明るくなる!」

「うおおお! 最高だぜ、兄ちゃん! このジュース、うめぇ! 俺もこの街が大好きだぜ!」


 特に、年配の店主や、仕事を終えた船乗りたちに護はたいそう気に入られた。ただし、若い女性たちは、その規格外の体格と食欲に、やはり少し引いているようだった。


 すっかり日も暮れ、満腹になった護が宿を探してきょろきょろしていると、昼間に魚をサービスしてくれた屋台のおかみが、にこにこと手招きしていた。


「あんた、宿を探してるんだろ? よかったら、うちの宿でいいなら泊まっていくかい? 部屋なら一つ空いてるよ。あんたみたいに威勢のいい若者は大歓迎さ」

「本当か、おばちゃん! 助かるぜ! 俺、宿を探してたんだ! この街の人、みんな優しいな! 最高だな!」


          



 通された部屋は、決して広くはなかったが、清潔で、潮風が心地よく吹き抜ける快適な場所だった。護がベッドに横になると、彼の巨体でベッドがギシギシと悲鳴を上げる。少し窮屈だったが、それすらも可笑しかった。  護は天井を見上げながら、今日一日の出来事を思い返す。異世界に来て、可愛い女の子を助けて、冒険者になって、自分の力で金を稼いだ。懐には、ずっしりと重い金貨の袋と、木の冒険者プレート、そしてシェフから別れ際にもらったハンカチがある。


「(すげぇ……本当に、俺の冒険は始まったんだ……! ゲームの世界みたいだぜ!)」


 明日は何をしよう。バルドの親父に教わった、美味い魔物を探しに行くか? 

それとも、もっと強い魔物を倒して、早くランクを上げるか?


「もちろん、コーラルちゃんやシェリーちゃんみたいな可愛いヒロイン探しも忘れちゃならねぇな! よっしゃ! 明日も頑張るぜ! 俺のモテ期はこれからだ!」


 異世界での生活への尽きない興奮と期待を胸に、護は心地よい疲労感に包まれながら、深い眠りに落ちていった。彼の新たな人生を祝福するかのように、窓の外からは、穏やかな月の光が差し込んでいた。

お読みいただきありがとうございます!


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★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。

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