【12-2】三日月小路の空気
その日の昼過ぎ。 三人は、目立たない旅人の服に着替え、王都の下層街へと足を踏み入れた。
そこは、白亜の建物が立ち並び、光に満ちた表通りとは、まるで別の世界だった。 無秩序に増築された建物が空を覆い、陽光を遮っているため、昼間でも薄暗い。狭い路地には、腐った水と香辛料、そして得体の知れない煮込み料理の匂いが混じり合った独特の悪臭が漂っている。 壁の隅では、痩せた子供たちが物欲しそうな目でこちらを見ており、建物の影には、獲物を狙う獣のような目つきの男たちが潜んでいた。すれ違う人々は誰もが、一様に警戒心を剥き出しにしている。
「……空気が悪いな」
カゲロウが呟く。 三人は、メルの指示通り、手分けして情報の断片を集め始めた。
護は、その巨体ゆえに逆にチンピラたちに絡まれるが、それをデコピン一発であしらうことで、「強えぇ新入り」として認めさせ、倉庫街で働く日雇い労働者たちの輪に入り込むことに成功した。
「ここだけの話ですがね、旦那。一番奥の『第7倉庫』……あそこだけは特別だ。金払いのいい貴族様が借り切っていて、夜になると黒い馬車が出入りしてる。近づこうとした奴は、二度と戻ってこねえって噂ですよ」
労働者たちは、酒を奢ってくれた護に、声を潜めて教えてくれた。
一方、カゲロウは持ち前の気配遮断で、裏通りの酒場や賭場に紛れ込み、人々の会話の渦の中から、必要な情報だけを拾い上げる。
「今夜、『大物』が入荷するらしいぜ」
「バロン・ガイツ様の用心棒、『グラック』って奴を見たか? あれは人間じゃねえ。化け物だ」
そしてメルは、持ち前の観察眼で、問題の倉庫街周辺を物理的に分析する。
「衛兵の巡回ルートが、この一角だけ不自然に迂回している。買収されているな。複数の倉庫があるが、人の出入りがあるのは『第7倉庫』だけ。魔力反応も、そこから微かに漏れ出ている」
夕方、三人は合流し、それぞれの情報を持ち寄った。 結論は一つ。 今夜、第7倉庫で何かが起こる。
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