【11-5】王都の華と、受付嬢の助言
数日後。 船は、王都アウロラの外港に到着した。 そこから馬車に乗り換え、城門をくぐった一行は、その壮大さに度肝を抜かれた。
「うおお……! すげぇ……!」
護が口をあんぐりと開けて空を見上げる。 白亜の城壁、芸術的な彫刻が施された石造りの建物、整然と並ぶ街路樹。行き交う人々も、マリーナの漁師たちとは違い、絹の服を着た貴族や、洗練された身なりの商人ばかりだ。 マリーナが「熱気と活気の街」なら、アウロラは「洗練と権威の街」だった。
「田舎者丸出しだな、脳筋」
メルが呆れたように言うが、彼女自身もキョロキョロと物珍しそうに辺りを見回している。
彼らはまず、情報収集と拠点確保のため、アウロラの冒険者組合支部へと向かった。 そこは、マリーナのギルドとは比べ物にならないほど、大きく、そして華やかだった。まるで神殿のような外観だ。
中に入り、受付カウンターに向かうと、そこにいたのは、上品な微笑みを浮かべた、金髪の美しい女性だった。 柔らかな金髪をシニヨンにまとめ、アウロラの朝焼けのような温かい色の瞳を持つ彼女は、清楚なデザインの制服を完璧に着こなしている。
(うわっ……! なんだこの、とんでもねえ美人……! コーラルちゃんやシェリーちゃんとはまた違う、なんていうか、本物のお嬢様って感じの……! 王都、すげぇ!)
護が、その気品ある美しさに見とれて立ち尽くしていると、彼女の方から優雅に会釈をした。
「いらっしゃいませ。ようこそ、冒険者組合アウロラ支部へ」
その声は、鈴を転がすように美しかった。護は慌てて、背筋を伸ばして名乗る。
「えーっと、その……『最強!スーパーガーディアンズ』の磐座 護だ!」
その少し恥ずかしいパーティー名を聞いても、彼女は眉一つ動かさず、むしろ興味深そうに瞳を輝かせた。
「まあ、『最強!スーパーガーディアンズ』の磐座 護様ですね。わたくし、このアウロラ支部の受付を統括しております、エレオノーラ・グレースと申します。マリーナ支部のコーラルから、魔導通信で噂はかねがね伺っておりますわ」
「え、コーラルちゃんから!? 俺の噂って……?」
「ふふ、ドワーフ製の水晶を素手で破壊したとか、オーガロードを単身で倒したとか……とても『元気な』方だと」
エレオノーラは、扇子で口元を隠してクスクスと笑った。 護が赤面していると、隣から、ぐいっと服の裾が引かれた。
「おい、脳筋。いつまで見惚れているんだ。口からよだれが垂れているぞ。みっともない」
メルが、心底軽蔑したような目で護を睨みつけている。
「な、垂れてねえよ!」
護が慌てて口元を拭う。そんな三人のやり取りを、エレオノーラは楽しそうに微笑んで見ていた。
カゲロウが、慎重に言葉を選びながら、「魔物の裏取引」について探っていることを伝えた。 すると、エレオノーラの表情から笑みが消え、プロフェッショナルな真剣な顔つきになった。彼女は周囲を一度確認してから、少し声を潜めて言った。
「……公式には、当支部はそのような市場の存在を把握しておりません。ですが」
彼女はカウンターの下から一枚の地図を取り出し、その一角を細い指で示した。
「これは、わたくし個人からの『助言』です。最近、この王都の下層街で、腕利きの冒険者が数名、行方知れずになっている、という不穏な噂がございます。彼らは皆、独自に『黒い荷物』の取引を調査していたとか……。ギルドとしても、下層街は治安が悪く、治外法権に近い場所でして、なかなか大っぴらな調査ができないのが実情ですの」
「その『黒い荷物』とは……?」
メルの問いに、エレオノーラは静かに首を振る。
「さあ……? ですが、最後に目撃されたのは、『三日月小路』と呼ばれる地区の、古い倉庫街だそうですわ。……わたくしに言えるのは、ここまでです。どうか、ご用心あそばせ」
エレオノーラの、コーラルへの友情と、護たちへの期待からなる計らいによって、三人は王都における最初の、そして決定的な糸口を手に入れた。
華やかな王都の裏側に潜む、深い闇。 三人は、その闇の中心へと、静かに足を踏み入れていくことになる。
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