【10-3】夜明け前の誓い
「……ボクが、あの時、好奇心に負けてモルゴーの後をつけたりしなければ……パパとママは、あの部屋を見つけることもなかった……。ボクのせいで……ボクが、二人を殺したんだ……!」
メルは、膝に顔を埋めたまま、震える声で吐き出した。 ずっと誰にも言えなかった。師匠にさえ言えなかった。 自分自身の好奇心が招いた悲劇。その罪悪感が、モルゴーへの恐怖以上に、彼女を縛り付けていたのだ。
潮騒の音だけが、静かに響く。 護は、何も言わずに立ち上がった。 そして、メルの前に立つと、その大きな手のひらで、メルの頭を――クシャクシャになるほど乱暴に、けれど、壊れ物を扱うように優しく、わしっと掴んだ。
「そっか……。辛かったな、メル」
護の声は、どこまでも穏やかだった。 同情するわけでも、安易な慰めを言うわけでもない。ただ、彼女の痛みを、そのまま丸ごと受け止めるような声。
「でもな、もう大丈夫だ。お前のパパとママの分まで、俺が絶対に、お前を守ってやるから。だから……もう一人で泣くな」
真っ直ぐな言葉が、メルの心に突き刺さる。 護の体温が、頭の上から伝わってくる。それは、あの日、師匠が抱きしめてくれた時と同じ、温かくて、安心できる温度だった。
メルは、顔を上げた。 涙で潤んだ瞳で、護を見上げる。月の光を背負ったその巨体は、まるで大きな岩のように、どんな嵐からも自分を守ってくれる盾のように見えた。
メルは、嗚咽を漏らしながら、護の服の裾をギュッと握りしめた。
それまで黙って幹に寄りかかっていたカゲロウが、静かに二人の元へ歩み寄ってきた。 彼は腰の刀に手を置き、夜の海を見据えながら言った。
「……復讐に手を貸すつもりはない。復讐は、何も生まないことを俺は知っている」
その言葉には、彼自身の過去の重みが滲んでいた。 カゲロウは視線をメルに移し、微かに口元を緩めた。
「だが、お前が前を向くために、あの男を討たねばならぬのなら……俺の剣は、お前たちのためにある」
彼の不器用な優しさに、メルは涙を拭い、鼻をすすった。 護の温もり、カゲロウの覚悟。二人の存在が、メルの背中を押してくれる。
メルは、ゆっくりと立ち上がった。 まだ足は震えている。でも、もう逃げない。
「……ありがとう、護、カゲロウ」
彼女は、二人を交互に見つめ、はっきりと言った。
「ボクは、決めた。復讐のためじゃない。パパとママが目指した、『誰かを守るための錬金術』を証明するために……ボクは、戦う! あの男の歪んだ科学を、ボクの錬金術で否定してみせる!」
それは、メルが過去の呪縛から解放され、自らの意志で未来を選んだ瞬間だった。
「おう! その意気だ! 俺たちがついてるぜ!」
護がニカっと笑い、メルの背中をバンと叩く。 メルは少しよろめいたが、今度はしっかりと足を踏ん張り、ふん、と鼻を鳴らした。
「当然だ。君たちはボクの『盾』と『剣』なんだからな。精々、しっかり働いてもらうよ」
いつもの憎まれ口。でも、その声は明るく澄んでいた。
東の空が、白み始める。 水平線の向こうから、紫色の空にオレンジ色の光が滲み出し、夜の闇を溶かしていく。 最初の朝日が、岬に立つ三人を優しく照らし出した。
それは、メルの心の夜明けであり、そして、護、カゲロウ、メルという、本当の意味での「パーティー」が誕生した、始まりの光だった。
「よーし! 腹減ったな! 帰って飯にしようぜ!」
「……お前はそればかりだな」
「まったく、雰囲気のない奴だね」
三人の笑い声が、朝の風に乗って空へと舞い上がっていった。
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