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『Transients』〜異世界で筋肉無双してモテたい!〜  作者: NewSankin
第一章

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【9-3】禁忌の記憶

「メル! 待てよ!」


護が反射的に追いかけようとする。 その太い腕を、アウレリアが静かに、しかし強い力で掴んで制止した。


「……待ってください、護さん」

「でも! あいつ、泣いてたぞ!」

「今は、あの子を一人にしてあげてください。今のあの子に必要なのは、感情を整理するための時間です」


アウレリアは、護の手を離すと、ハンカチで目元を拭い、努めて冷静な表情を作った。


「それに……あなた方には、聞いていただきたい話があります。あの子が背負っている、過去の全てを」


アウレリアに促され、護とカゲロウはソファに腰を下ろした。 重苦しい空気の中、アウレリアは語り始めた。


メルの両親もまた、優秀な錬金術師であったこと。 ある日、研究所の爆発事故で二人が亡くなったこと。 だがそれは事故ではなく、モルゴーによる意図的な殺害であったこと。 幼いメルだけが、研究室の地下書庫に隠れ、奇跡的に生き延びたこと。


「あの子は、両親が殺される瞬間を……その目で見てしまったのです」


護が息をのむ。カゲロウの表情が、能面のように硬くなる。


「わたくしは、孤児となったあの子を引き取りました。才能ある錬金術師の忘れ形見として、そして何より……かつての弟子が奪ってしまった未来を、償うために」


アウレリアは、自身の膝の上で手を固く握りしめた。


「わたくしは、あの子を弟子として、そして我が子として愛し、育ててきました。……ですが、あの子の心の奥底には、まだあの日の炎が燻っている。モルゴーへの恐怖と憎悪が、あの子を縛り付けているのです」


話を終えたアウレリアは、護の目を、そしてカゲロウの目を、懇願するように見つめた。


「磐座 護さん、カゲロウさん。どうかお願いします。あの子の心の闇を、あなた方の光で祓ってあげてはいただけないでしょうか。そして……老いたわたくしに代わって、モルゴーの悪行を止めていただきたいのです」


アウレリアが、床に膝をつき、深く頭を下げる。 その姿を見て、それまで黙って話を聞いていたカゲロウが、静かに、しかし鋭く問いかけた。


「……話は分かった。俺たちは行く。だが、あんたは行かないのか? 元弟子で、我が子同然のメルの仇だろう。自分の手で決着をつけたいとは思わんのか?」


その問いに、アウレリアは顔を上げ、悔しそうに唇を噛んだ。


「ええ、行けるものなら……今すぐにでも飛んでいって、この手で彼を裁きたい。ですが、わたくしにはそれが許されないのです」


「……どういうことだ?」


「『賢者アウレリア』という存在は、この世界において大きすぎるのです。遥か昔、わたくしはこのエルドラド王国の庇護を受け、研究の自由を保障される代わりに、ある契約を交わしました。『国王陛下の許可なく、この国から一歩も出てはならない』と」


アウレリアは、窓の外、遥か彼方にある国境の方角を見つめた。


「わたくしの持つ知識は、他国、特に魔法技術を競うマギア共和国にとっては、喉から手が出るほど欲しい軍事機密の塊。わたくし個人の行動が、最悪の場合、国家間の戦争の引き金になりかねないのです。……鳥籠の中の賢者。それが、わたくしの実態です」


ここを動けない自分に代わって、どうか。 その瞳は、依頼人としてではなく、ただ子供の身を案じる、無力な母親のそれだった。

お読みいただきありがとうございます!


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★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。

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