【7-3】守られるということ
洞窟内の広場で、一行はついに本格的な戦闘に突入した。天井から、無数の糸を垂らし、待ち構えていたジャイアント・スパイダーの群れだ。
「来たか! 脳筋は正面! 根暗は側面から回り込め! 弱点は、頭部の複眼だ! そこを狙え!」
メルが叫ぶ。
「うおおお!」
護が、群れのど真ん中に飛び込み、戦斧『岩砕き』を振り回してスパイダーたちの注意を引きつける。その巨体を盾に、カゲロウが影のように駆け抜け、糸を吐く前にスパイダーたちの足を切り裂き、動きを封じていく。 最後の巨大な一匹を、護が叩き潰した、その瞬間だった。 戦闘の衝撃で、脆くなっていた天井の岩盤が、大きな音を立てて崩れ始めた。
「しまった!」
メルは、分析のために倒した魔物の死骸に近づいていた。メルの頭上に、巨大な岩塊が落下してくる。
「メル、上だ!」
カゲロウが叫ぶ。メルが顔を上げると、そこには自分の体を覆い尽くすほどの、絶望的な岩の影があった。 小さな悲鳴。しかし、衝撃は来なかった。 彼女が顔を上げると、そこには、巨大な岩をその背中で受け止め、自分を庇う護の姿があった。
ゴシャアアアン!
という凄まじい轟音と共に、岩は護の背中で砕け散り、細かい破片が周囲に飛び散った。
「いってぇな! さすがにこれはちょっと効いたぜ!」
護は笑っていたが、その額からは、赤い血がダラダラと流れ落ちていた。
「へへ、大したことねえ! 大丈夫だ!」
護は気丈に振る舞うが、その顔は明らかに青ざめ、足元もふらついている。
「馬鹿を言え。その状態で進めるか。休息する」
カゲロウが、有無を言わさぬ口調で告げた。
(ボクの、せいだ……)
メルは、目の前の光景に、言葉を失っていた。
(ボクが油断したから。ボクが、彼の警告を無視して死骸に近づいたから。この脳筋が、ボクを守って、大怪我を……)
自分の未熟さが招いた結果に、メルは顔面蒼白になり、負い目と自己嫌悪で唇を噛み締めた。 その時、メルの脳裏に、師であるアウレリアの言葉が蘇った。
『あなたには、実社会での経験が決定的に欠けている』
(そうだ……ボクは、まだ、ただの子供だ……)
しかし、メルはすぐに首を振った。
(いや、違う。ボクは、天才だ。天才なら、この状況を覆せるはずだ!)
メルは、震える手で錬金術キットを取り出すと、護の傷口を観察し、即座に行動を開始した。
(深い裂傷、出血多量による目眩……。ただの回復薬じゃ追いつかない。止血と細胞活性化、それに彼の特異な体質を考慮した魔力親和性の向上……調合は頭の中にある!)
メルは、ベースとなる回復薬に、止血効果のある鉱物の粉末、細胞を活性化させる薬草のエキスを、一滴の狂いもなく調合していく。その姿は、先ほどまでの生意気な子供ではなく、真剣な研究者のものだった。
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