【7-1】天才の指揮
マリーナの街から数日の旅を経て、一行は目的地の「囁きの洞窟」の入り口に立っていた。 鬱蒼とした森の奥深く、巨大な岩の裂け目が、まるで大地の口のようにぽっかりと開いている。その奥からは、ヒューヒューと不気味な風が吹き出し、まるで何者かが囁いているかのような不気味な音を立てていた。周囲からは、鳥や虫の声も一切聞こえず、ただただ静寂だけが支配している。
「ここが、囁きの洞窟か……。なんだか、嫌な感じだな」
護が、本能的な警戒心から呟く。 その時、それまで黙って地図と睨めっこしていたメルが、パン、と手を打ち、二人に向き直った。その小さな顔には、不相応なほどの自信と、有無を言わさぬ威圧感が浮かんでいた。
「いいかい、君たち。これより先に進むにあたり、一つだけ絶対のルールを設ける」
メルは、ビシッと指を突きつけて宣告した。
「この洞窟の中では、ボクの指示に絶対に従ってもらう。いいね?」
「なんだよ、急に」
「君たちのような脳筋と根暗に、この洞窟の攻略は不可能だと判断したからだ。ここは、ただの腕力やスピードだけじゃ攻略できない。魔法的な罠や、幻覚を見せる胞子、特殊な生態を持つ魔物がうじゃうじゃいる。君たちが考えなしに突っ込めば、一分で死ぬ。ボクの護衛役が、ボクより先に死んでもらっては困るんでね。だから、ボクの言うことだけを聞いていればいい。いいかい、絶対だぞ!」
その理路整然とした、しかし相変わらず生意気な口調に、護は反論しようとしたが、隣にいたカゲロウが静かに口を開いた。
「……理にかなっている。俺は構わん」
「え、カゲロウ!?」
「こいつの言う通りだ。未知のダンジョンでは、斥候や魔術師の判断に従うのが定石だ。俺たちの役目は、こいつの指示通りに、道を切り拓き、こいつを守ること。それだけだ」
カゲロウにまで言われ、護は「うぐぐ……」と唸ったが、パーティーのルールなら仕方がない。
「……わかったよ! その代わり、変なキノコとか見つけたら、ちゃんと教えろよな!」
「当然だ。君が毒キノコを食べてのたうち回られても、迷惑だからね」
こうして、パーティーの指揮権は、一時的に最年少の賢者、メルが完全に握ることになった。
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