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『Transients』〜異世界で筋肉無双してモテたい!〜  作者: NewSankin
第一章

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【5-3】コーラルの助け舟

仲間探しが難航し、護がギルドのテーブルで突っ伏して落ち込んでいると、一人の人物が声をかけてきた。コーラルだった。


【コーラル視点】


(やっぱり、こうなりましたか……)


 私は、テーブルで大きな体を小さくしている護さんと、壁際でいつも以上に不機嫌な空気を漂わせているカゲロウさんを見て、大きなため息をついた。  パーティーメンバー募集の札を見てから、こうなることは予想していた。磐座さんの圧倒的なパワーと、カゲロウさんの孤高すぎる名声。二人とも、冒険者としては一流だけれど、パーティーメンバーとしてはあまりに異質すぎる。普通の回復職や後衛職の人が、あの二人の「背中を預かる」ことに、二の足を踏むのは当然だった。


(でも、このままにしておくわけにもいかないし……)


 私は、数日前から一件だけ、誰からも引き受け手のつかないまま残っている、奇妙な依頼書の束を手に取った。リスクは高いけれど、あるいは、この二人なら……。


【護視点】


「磐座さん、カゲロウさん。仲間探し、難航しているようですね」


 コーラルの言葉に、護は「うぅ……俺って、そんなに人気ねえのかな……」と、ますます落ち込んでしまう。


「いえ、そういうわけでは……。お二人のパーティーは、あまりにも前衛の火力が突出していて、普通の支援職の方では、少しバランスが取りにくいのかもしれません」


 コーラルはプロの笑顔でフォローすると、一枚の依頼書をテーブルに置いた。


「そこで、ご提案なのですが。この依頼はいかがでしょう?」


 そこには、こう書かれていた。


【依頼種別】護衛依頼(Cランク)

【内容】錬金術師の弟子を、『囁きの洞窟』まで護衛し、希少鉱物『月光苔』の採取を補助すること。

【報酬】金貨50枚 【備考】依頼主は非常に……個性的です。


「護衛依頼?」

「はい。依頼主は高名な錬金術師のお弟子さんだそうで、報酬もCランク依頼としては破格です。ただ、その……依頼主の方が少し気難しいのと、目的地の『囁きの洞窟』が、最近魔力の流れが不安定になっている、という報告がありまして……。誰も引き受け手がいないんです」


 コーラルは説明を続ける。


「ですが、お二人なら、どんな危険があっても力で突破できるかと。それに、錬金術師の方なら、普通の回復職とは違う形で、お二人の力になってくれるかもしれません。もしかしたら、思わぬ形で、探しているものが見つかるかもしれませんよ?」


 そして、コーラルは声を潜め、悪戯っぽく微笑んだ。


「それと……これはここだけの話ですけど、依頼主の師匠である高名な錬金術師様は、とても美しい女性のエルフだ、という噂ですわ」

「うつくしい……じょせい……エルフ……」


 護の頭の中で、単語が反芻され、楽園のイメージに変換される。  次の瞬間、護はテーブルを叩いて立ち上がった。


「受けたッ! その依頼、俺たちがやる!」


 そのあまりの現金さと単純さに、カゲロウは今日一番の深いため息をつくのだった。


          ◇


 護とカゲロウは、コーラルから受け取った依頼書に記された住所を頼りに、マリーナの街を歩いていた。普段は閑静な住宅街だが、その一角だけ、明らかに異質な空気を放つ邸宅があった。  蔦の絡まるレンガの壁、そして庭には温室グリーンハウスと思しきガラス張りの建物があり、中では青白く発光する植物や、不気味な形をしたキノコなどが栽培されている。


「すげぇ……ここか! コーラルちゃんの言ってた、美しいエルフの錬金術師の家!」


 護の期待は最高潮に達していた。その隣で、カゲロウは邸宅から漏れ出る、様々な薬品の混じった独特の匂いに、警戒するように眉をひそめている。  護が、意気揚々と重厚な木の扉をノックすると、静かに扉が開かれた。


 そこに立っていたのは、噂に違わぬ、息をのむほどに美しいエルフの女性だった。  腰まで届く流れるような銀の髪、森の湖のように深く、そして知性を感じさせる翠色の瞳。年齢は感じさせないが、その佇まいには、長年を探求に費やしてきた者だけが持つ、独特の落ち着きと威厳があった。


「あなたがたが、ギルドから紹介された冒険者ですね。お待ちしておりました。わたくしはアウレリア。さあ、中へどうぞ」


 護は、その神々しいまでの美貌に、完全に魂を奪われていた。


(き、来たー! 超絶美人! 俺、この人のためなら何でもする!)


 カゲロウは、アウレリアの隙のない所作と、その瞳の奥に宿る鋭い観察眼に、より一層警戒を強めていた。  通されたのは、書斎と実験室を兼ねたような部屋だった。壁一面の本棚には、分厚い専門書がぎっしりと並び、テーブルの上では、怪しげな色の液体が入ったフラスコが、くつくつと音を立てて煮えている。


「さて、単刀直入に伺いましょう」


 アウレリアは、席を勧めるでもなく、二人を値踏みするように見つめた。


「あなたが、先日スタンピードを鎮圧したという、磐座護さんですね。報告書は読ませていただきました。ギルドの鑑定水晶を破壊するほどの、規格外の身体能力。実に興味深い」

「へへへ、まあな!」


 褒められて(?)、護は照れくさそうに頭を掻く。アウレリアは、次に視線をカゲロウに向けた。


「そして、あなたが『孤高の剣士』カゲロウ。あなたほどの腕利きが、新人と組むとは珍しい。その理由にも、興味があります」

「……」


 カゲロウは何も答えない。アウレリアは、それを気にした様子もなく、話を続けた。


「今回の依頼の目的は、表向きは『月光苔』の採取。ですが、本当の目的は、わたくしの弟子の最終試験です」

「試験?」

「ええ。あの子は、知識と才能だけは有り余るほどに持っている。ですが、実社会での経験、特に、自分より劣る人間と協力し、目的を達成するという経験が決定的に欠けている。温室育ちの天才に、世間の厳しさを教えるための、荒療治というわけです」


 アウレリアの言葉には、弟子への期待と、そして少しの諦観が滲んでいた。


「あなた方を選んだ理由も、そこにあります。磐座護、あなたのその規格外の頑丈さは、どんなトラブルからも弟子を守る、最高の『盾』となるでしょう。そしてカゲロウ、あなたの冷静な判断力と剣の腕は、道を切り拓く最高の『矛』となる。アンバランスで、個性的で、だからこそ、あの子の鼻っ柱を折るには最適だと判断しました」


 つまり、自分たちは、生意気なガキのお守り兼、教育係として選ばれたというわけだ。


「どうです? この依頼、改めてお引き受けいただけますか?」

お読みいただきありがとうございます!


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★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。

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