【5-2】初めてのパーティー会議
ギルド長室を出た後、二人は街の食堂で遅い昼食をとっていた。護の前には、空になった大皿が何枚も積み重なっている。
「いやー、Cランクかぁ! 俺たち、もう中堅冒険者だな! 向かうところ敵なしだな!」
山盛りの肉を頬張りながら、護が興奮気味に言う。それに対して、カゲロウはエールを静かに一口飲むと、冷ややかに言い放った。
「馬鹿を言え」
「なんだよー! 事実だろ!」
「昨日の戦いを思い出せ。俺たちは、盾のない剣であり、剣のない盾だ。正面の敵は斬れるし、殴り倒せる。だが、横から毒矢が飛んでくれば? 足元に呪いの罠があれば? 遠くから魔法で撃たれれば? どうする。俺もお前も、ただ的になるだけだ。昨日勝てたのは、運が良かっただけだ。ダリウスの言った通りだ」
カゲロウの、読者に分かりやすく工夫された言い回しに、護も反論できない。フィンのように、仲間が目の前で倒れる光景が脳裏をよぎる。
「じゃあ……どうすればいいんだ?」
「考えるまでもない。俺たちに足りないものを補う仲間を探すんだ」
「足りないもの……」
護は巨大な腕を組んで、うーん、と唸った。
「そうか! わかったぞ! 俺たちの後ろから、もっとすげえ攻撃ができる奴がいればいいんだ! すげぇ魔法使いとか!」
「それも重要だが、今はもっと他に必要な奴がいるだろう……魔法使いとは後で良い」
「じゃあ、俺と同じくらい頑丈な奴をもう一人! 三人で鉄壁の壁を作れば、どんな攻撃も防げる!」
「壁は殴られれば削れる。傷を治せなければ、いつか崩れるだけだ。それも違う」
カゲロウにことごとく否定され、護は再び唸った。傷を、治す……? 昨日の戦い。フィンが倒れ、レオが必死で治癒薬を飲ませていた光景。医務室で、治癒師の女性が自分たちの傷を癒してくれたこと。
「……そうか!」
護は、ポンと手を打った。
「どんなに強い攻撃も、どんなに硬い守りも、怪我をしちまったら意味がねえ! 傷を治してくれる奴がいれば、俺たちは何度でも戦える! 俺たちには、回復役が必要なんだな!」
その答えに、カゲロウは初めて、静かに頷いた。二人の間に、明確な共通の目標が生まれた瞬間だった。
◇
意気揚々とギルドに戻った二人は、早速、メンバー募集の掲示板に向かった。
「よし、俺が書く!」
「……やめておけ。どうせ、『脳筋と美少女歓迎』としか書かんのだろう」
カゲロウは、護から木札とペンを取り上げると、最低限の情報だけを簡潔に書き記した。
【メンバー募集】
パーティー名:未定 募集職種:回復、後衛支援職全般 ランク:問わず 当方:Cランク戦士(盾役)、Cランク剣士(攻撃役) 備考:前衛火力は保証する。詳細は面談にて。
その札を掲示板に貼り、二人は待った。しかし、仲間探しは、予想以上に困難を極めた。 札を見た冒険者たちの反応は、一様に芳しくない。
「おい、これって『クラッシャー』と『孤高の剣士』のパーティーだぜ……」
「前衛が脳筋二人って、バランス悪すぎだろ。回復役が狙われたら一巻の終わりだな……」
「そもそも、あの二人の戦闘ペースについていける気がしねえ……」
護の規格外の戦闘スタイルと、カゲロウの「誰とも組まない」という評判が、逆に敬遠される原因となってしまっていた。普通の回復職(プリーストや白魔道士)は、もっとバランスの取れたパーティーを好むのだ。 数日が過ぎ、護はしびれを切らして、直接勧誘に乗り出した。
まずは、ギルドで熱心に祈りを捧げていた、生真面目そうな神官の青年に声をかける。
「よぉ! 俺は護! あんた、回復魔法が使えるんだろ? 俺たちの仲間にならねえか?」
神官は、護の巨体と、その背後に立つカゲロウの刺すような視線に完全に怯えてしまった。
「ひっ……! わ、私は、神の教えに従い、秩序と調和を重んじるパーティーでしか、その力は……! し、失礼します!」
そう言って、彼は逃げるように去ってしまった。 次に、華やかなローブをまとった女性の魔道士に。
「お嬢さん! あんたの魔法、すげぇ綺麗だな! 俺たちの後ろから、ドカーンと一発、お願いできねえか?」
彼女は、値踏みするように二人を見ると、フン、と鼻を鳴らした。
「私の魔法は芸術なのよ。あなたたちみたいな脳筋の壁役の後ろで、ごちゃごちゃした乱戦に巻き込まれるのは趣味じゃないわ」
そう言って、ツンとすまして去っていく。 護の「美少女ならもっと歓迎」という夢は、ことごとく砕け散っていった。
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