【5-1】二人の英雄と小さな賢者
マリーナの街を襲ったスタンピードの脅威が去った翌朝。 ギルドの医務室で、磐座護は目を覚ました。全身を包む、心地よい疲労感と、あちこちの傷の疼き。それは、彼にとって初めて経験する、仲間を守り抜いた戦いの証であり、誇らしい勲章だった。
「……起きたか」
静かな声に視線を向けると、同じように全身に包帯を巻かれたカゲロウが、窓の外を眺めていた。パーティー結成後、初めて交わす言葉だった。
「おう。……なんだか、すげぇぐっすり眠れたぜ」
「いびきが熊の冬眠のようだったぞ」
「そりゃあ、いいトレーニングの後の、筋肉が喜んでる証拠だ!」
「……そうか」
そこに、治癒師の女性が回復薬の盆を持って入ってきた。
「お目覚めですか、お二人とも。気分はいかがです? 大きな傷は塞ぎましたが、筋肉の疲労までは取りきれませんから、今日は安静にしてくださいね」
「腹が、減りました!」
護が元気よく答えると、治癒師は呆れたように笑い、カゲロウは深くため息をついた。 これが、二人のパーティーの日常の始まりだった。
◇
退院の手続きを済ませ、ギルドの食堂で山盛りの朝食を平らげた後、護とカゲロウはギルド長の部屋に呼び出された。 ダリウスは、いつもの豪快な笑みを引っ込め、冒険者たちを束ねる長としての厳しい顔つきで二人を迎えた。
「昨日は、見事だった。お前たち二人がいなければ、マリーナの街は今頃、魔物の餌食になっていただろう。街を代表して、礼を言う」
ダリウスが深く頭を下げる。その真摯な態度に、護も居住まいを正した。
「今回の功績を鑑み、ギルドとして特例措置を決定した。磐座護。貴様を本日付で、Dランクを飛び越え、Cランク冒険者へと昇格させる」
「え、本当か!?」
「ああ。聞け、小僧。俺も長くこのギルドの長をやっているがな、登録してたった数日で木っ端のプレートから銅のプレートに成り上がった奴は、後にも先にもお前だけだ。本来ならBランク級の働きだが、さすがに飛び級にも限度がある。これが俺の権限でできる、最大限だ。受け取れ」
ダリウスが、新しい銅製のプレートを差し出す。護は、子供のようにはしゃぎながらそれを受け取った。
「やったぜ! Cランク! これで、また一歩モテる男に近づいた!」
その言葉に、カゲロウが再び深いため息をつくのが聞こえた。カゲロウには、スタンピード討伐の特別報酬として、ずっしりと重い金貨の袋が手渡された。
「だが、勘違いするなよ、小僧ども」
ダリウスの目が、鋭く二人を射抜く。
「お前たちは、勝つべくして勝ったわけじゃねえ。運が良かっただけだ。そのことを肝に銘じておけ」
ベテランのギルド長からの言葉は、浮かれていた護の心を冷静に引き戻すには、十分すぎるほどの重みを持っていた。
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