【4-2】つきまとう巨岩
【カゲロウ視点】
うるさい。 とにかく、うるさい。 この数日間、俺の耳には常に一つの音――いや、騒音が付きまとっていた。 磐座護という、巨大な赤ん坊のような男の声だ。 ギルドで、街角で、食事処で、俺を見つけるたびに、尻尾を振る犬のように駆け寄ってくる。
「頼むって! カゲロウ! お前がいれば最強のパーティーになれるんだ!」
「…………」
「俺、お前の剣技に惚れたんだよ! なあ!」
その言葉には、一片の嘘も計算もない。ただ、思ったことをそのまま口にしているだけだ。純粋すぎるその瞳は、過去の傷を抉る。馴れ合いを嫌い、一人でいることを選んだ俺にとって、その存在は眩しすぎて、鬱陶しい。
(こいつを黙らせるには、どうすればいい……?)
力で捩じ伏せても、この男は諦めないだろう。ならば、本人に諦めさせるしかない。
【護視点】
あまりのしつこさに、ついにカゲロウが足を止め、口を開いた。その声は、心底うんざりしていた。
「……うるさい。いいだろう、そんなに言うなら条件だ。この街道を三日間、一匹たりとも魔物を街に近づけるな。それができたら、考えてやる」
明らかに無理難題だった。この街道は、ゴブリンなどの雑魚魔物が頻繁に出没することで知られている。三日間、不眠不休で見張るなど、常人には不可能だ。護を追い払うための、ただの口実だった。 しかし、護はそれを真に受けた。
「わかった! 約束だぞ!」
満面の笑みでそう言うと、護は本当に街道に残り、仁王立ちで見張りを始めた。そのあまりの純粋さと、底なしの馬鹿さ加減に、カゲロウは顔をしかめる。
「(……話が通じない、馬鹿が。これで三日は持つ。その間に、この街を出る)」
カゲロウは心の中で吐き捨て、この三日間で街を出る準備を始めるために背を向けた。
◇
【マーカス視点】
最悪だ。簡単な薬草採取の依頼のはずが、目当ての薬草が群生地から少し離れた崖にしかなくて、思いの外、時間を食っちまった。
「チッ……これじゃあ、もう街の門は閉まっちまう。仕方ねぇ……野宿か」
Dランク冒険者の俺、マーカスは悪態をつきながら、街道脇で野宿の準備を始めた。 ガキの頃、じいちゃんが話してくれた御伽話に出てくるような英雄に憧れて冒険者になったが、現実は甘くなかった。俺には才能がなく、いつしか夢を諦め、日銭を稼ぐだけの捻くれた男になっていた。 そんな時だった。焚き火の明かりに誘われたのか、あの噂の『クラッシャー』が、でかい図体で現れたのは。
(なんだって、こんな所で会っちまうんだ……)
【護視点】
護が街道の見張りを続けて二日目の夕方、依頼帰りの冒険者、マーカスと出会った。
「よう、兄ちゃん! お疲れさん! よかったら、一緒に飯でもどうだ?」
護が焚き火で焼いた魚を差し出すと、マーカスは訝しげな顔でそれを受け取った。
「あんたが、あの『クラッシャー』か。こんな所で何してんだ?」
「俺は護だ! カゲロウとの約束で、ここを見張ってるんだ!」
護が屈託なく夢を語る。最強のパーティーを作って、有名になって、女の子にモテたい、と。 マーカスはそれを鼻で笑った。
(最強になる、だぁ? 馬鹿馬鹿しい。才能もねえくせに夢だけ見てるガキと一緒だ。……いや、こいつは違うか。生まれつき、俺にはない全てを持っている……)
マーカスの胸に、黒い嫉妬の感情が渦巻いた。
お読みいただきありがとうございます!
もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 ページ下の【☆】マークから評価や、ブックマーク登録をしていただけると、作者のモチベーションがマッハで上がります! (感想もお待ちしています!)
★更新予定 毎日19時に更新します。ストックはあるつもりなので、安心してお付き合いください。




