【4-1】始まりの咆哮
マギア共和国のとある研究所。 そこは、生命への冒涜を体現したかのような空間だった。壁には、おぞましい魔物の設計図や、非人道的な解剖図が所狭しと貼られている。薬品のツンと鼻を突く刺激臭と、微かな血の匂いが混じり合い、部屋の主の歪んだ精神を映し出していた。
科学者、ドクター・モルゴーは、巨大な円筒形の水槽に浮かぶ「何か」を、恍惚とした表情で見つめていた。 彼の背後で、慌ただしい足音と共に部下の一人が駆け込む。
「モルゴー博士! 先日、エルドラド王国のマリーナ近郊に放った強化型オーガロードが……討伐されました!」
「ほう……あのオーガロードが? かなりの強化を施したはずだが」
モルゴーは、水槽から目を離さずに眉をひそめた。
「聖剣の勇者の仕業か?」
「いえ、勇者パーティーの現在地は、ここから遥か北のシルヴァニア連合王国内。時系列的に、彼らの介入はありえません」
「では誰がやった?」
「は、それが……ギルドに登録したばかりの新人、と……報告が……」
部下の言葉に、モルゴーは初めて興味なさげに振り返った。
「……フン。まあ良い。どうせ、ただの試作品だ。データは取れたのだろう?」
「は、はい! ですが、その新人について不可解な点が……。討伐記録によれば、その新人……磐座護は、人間とは思えない、異常なまでの身体能力を有している、と」
その言葉に、モルゴーの目の色が変わった。退屈そうな仮面が剥がれ落ち、狂気的な探究心がその瞳に宿る。
「ほう……? 魔力に頼らぬ、純粋な肉体フィジカルの突然変異体ミュータントか。面白い……実に興味深いサンプルだ。ならば、次の実験には最高の実験場かもしれんな」
モルゴーは口元に歪んだ笑みを浮かべると、部屋の中央に鎮座する巨大な水槽を指し示した。 彼が指し示した水槽の中では、オーガロードを遥かに凌ぐ、おぞましいキメラが不気味に蠢いていた。それは、ライオンの頭、ドラゴンの翼、蛇の尾を併せ持つ、悪夢の具現。本来、勇者アレスにぶつけるはずだった、彼の「最高傑作」である。
「最高の余興だ。私の可愛いキメラが、あの『サンプル』を喰らい、どう進化するのか……じっくりと見せてもらおうじゃないか」
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