【3-3】謎の剣士と不穏な影
「……というわけで、全然仲間が見つからねえんだ……みんな俺から逃げるんだ……」
その日の夜、護はギルドでコーラルに愚痴をこぼしていた。
「はぁ……磐座さんの場合、強すぎて逆に敬遠されてしまうのかもしれませんね……」
「マジかよ……俺、こんなに仲間思いなのに……ってか、コーラルちゃん、今日も可愛いね!」
コーラルが困ったように相槌を打つ。
「それでさ、今日、すげぇ剣士に会ったんだ! でも、断られちまった。黒い着物で、右の目に傷があって、すげぇ速い居合を使うんだけど、誰だか知らないか? 絶対強いぜ、あいつ!」
護が特徴を伝えると、コーラルの表情が曇った。
「その特徴は……間違いありません。高ランクの冒険者、『カゲロウ』さんです」
「カゲロウ! カッコいい名前だな! ってか、やっぱり高ランクだったのか! どうりで強いわけだ!」
「はい。でも、磐座さん、あの方を勧誘するのは諦めた方がいいかもしれません。カゲロウさんは、これまで一度も誰ともパーティーを組んだことがないんです。どんなに困難な依頼も、たった一人でこなす……『孤高の剣士』として、有名ですから」
コーラルは言葉を続けた。護は、その言葉に落ち込むどころか、逆に目を輝かせた。
「(孤高の剣士……カゲロウ……その響き、たまらねぇな!)」
その響きは、護の心を鷲掴みにするには十分すぎるほど魅力的だった。
「(カッコよすぎるだろ! あんなに強くて、クールで、しかも孤高! 絶対に仲間にする! どうやったら、あいつは仲間になってくれるんだ……?)」
護の頭の中は、カゲロウをどうやって口説き落とすか、そのことでいっぱいになった。
その頃、マリーナの街の灯りが届かない、魔物買取所の奥。 バルドとダリウスは、解体されたオーガロードの死骸を前に、静かに、しかし緊張を帯びた声で話していた。
「ダリウス、やはりおかしかった」
バルドが指し示したのは、オーガロードの心臓があった場所だ。そこには、魔物本来の魔石とは別に、不自然なほどに滑らかで、幾何学的な模様が刻まれた、黒い石が埋め込まれていた。
「見た目はただのオーガロードだが、こいつの心臓には、こんな『人工の魔石』が埋め込まれていた。こんなもんは、自然界には存在しねぇ。誰かが、意図的に魔物を強化している証拠だ」
ダリウスの眼帯のない左目が、鋭く光る。
「ただ強化しているだけじゃねえ。この魔石、エネルギーの波長が歪んでやがる。まるで、生き物の魂を無理やりねじ込んで、暴走させているみてぇだ。悪趣味極まりねぇな」
「ああ。こんな化け物が野放しにされてるとなると、被害は計り知れん。ギルド本部にも連絡が必要な重要事項だ」
ダリウスは頷くと、懐から通信用の魔道具を取り出し、呪文を唱え始める。魔法の光が、緊急連絡を告げる手紙を形作っていく。
「バルド、心当たりは?」
「……これほどの魔石技術と、生命倫理を無視した悪趣味さ。考えられるのは一つしかねぇ」
ダリウスは、魔法の光に照らされた険しい顔で、一つの国の名を呟いた。
「――マギア共和国。あの魔法狂どもの中でも、特にタチの悪い連中の仕業だろうな」
ダリウスの言葉を最後に、部屋は再び静寂に包まれた。マリーナの街に、新たな、そして不穏な影が忍び寄ろうとしていた。
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