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【第三部完結】灰に至るまで  作者: からん
番外編 血肉の檻
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間話 三年前

 本来屠畜場と呼ばれる場所。


 途切れ途切れに砲音が届くここには、命に関わる設備がある程度揃っていたため、戦時中の臨時病院兼整備処になった。


 本来屠体を吊るす空間に、ただ怪我をした人間が転がって、うめき声をあげる。遠くからは、まるで処分待ちの肉塊がずらりと並んでいるように見えるだろう。


 そんな人と獣の匂いが混じって、蝿が飛び交う場所の片隅。


 家畜を捌く台の上に、男――ベーゼ・バラトルムが横たわっていた。


「ほんとうにやるのかね」


 黒ずくめの服を着込んだ男が問うた。


 顔全体を覆うマスクを被っている男。


 不気味な外見をしているが、その右腕についている腕章は赤。


 東大陸では、医者を意味するものだ。


「ああ、構わんよ。ドクター。この戦場の片隅にたどり着くまでどれだけ苦労をしたと思う。全てこの時のためだ。オレの身体で実験してくれ」


 四肢を切断し、そこに義肢をつける。


 それがベーゼの望みだ。


「正直、ドレシアに行ったほうがよいと思うが、必要なら推薦状でも書いてあげよう」


「あの町はたしかに義肢が発達してるが、駄目だな。ドレシアのもんは装備者をより人間らしくするために開発されたもんだ。オレが望むのはそんなものじゃない」


 医者の忠告を、ベーゼは笑い飛ばした。


「まったく、自ら進んでこんな手術を受けるなんて、頭がどうかしているよ、あなた」


 と、医者はやや呆れたように評するが、ベーゼはまたしても笑う。


「ハハハ、褒め言葉として受け取るよ。それに、べつに気にする必要はねぇ。娘と『約束』したもんで……やらなければならないんだ。ドクターも毎日こんな場所に引きこもって死にかけた肉体を漁るのは大変だろ。ウィンウィンってやつだ」


 医者は一度仮面みたいなマスクを直す。


「たしかに、ただ、我々は別に戦うために……いや、こんなことにあなたに説いても仕方がないか。いずれ東へ戻る人間だから」


 並ぶ道具一式から、医者はメスを手に取る。


「もし成功すれば、君は自分の祝福を五つも同時に使えるようになる。ただし、残される寿命はそう多くないと心得ておけ」


「だいたいどれぐらいになるんだっけ」


「そうだね。残りの寿命が五分の一にまで減ったと考えたほうがいい」


「ふむ、仮に八十代まで生き延びられるとしたら、あと六七年ってところか」


「リハビリの時間を入れると、実際に動けるのは四五年だ。当然、あくまでこの手術で死なずに済んだら、の話だが……それに、成功したところで、思い通りに動けないかもしれない」


「構わないよ。一生廃人になるよりはマシだろ」


 異端討伐隊首席――『不癒』の祝福を持つベン・ヌーボに切られた手足は、もう二度と剣を握れない。だから、ベーゼはうまく動かない四肢を引きずって、二年もの間東大陸の戦場を彷徨っていた。


 ――ただ、残りわずかな可能性を実現するためだけに。


「では、手術の第一段階を行う。まずは左足からだ」


 麻酔もなく、生きた人間から神経を取り除く手術の始まりである。

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