間話 アロガンテッソ
寒風が容赦なく通り抜けてくる小屋。
アロガンテッソは目を閉じたまま座り込んで、なんとか淀んだ思考をかきまわす。
すこしずつ、窓越しに空の青が滲んでくる。
夜明けだ。
あの男が言う、城門棟に戻るべき時間である。
しかし……。
隣では弟子のララが昏睡状態で、いまもうなされている。
加えて弟子二人にたんまりと持たせた資料と、なんとしても一体は持ち帰りたい死骸。
研究のために引き続きここに留まるか、それとも弟子も捨てておめおめ逃げ帰るか。
アロガンテッソはそういった選択に苛まれていた。
いや、そもそも自分ひとりでは城門棟には戻れないだろう。
案内役がいなければ地図もわからないうえに、いまの状態だと無詠唱魔法を使うほどの精神力もない。
さまよっている異形に食われるのが落ちだ。
「はぁ……」
アロガンテッソはため息を漏らした。
もしかして、ヒャーナの言葉の通りはやめに撤退したほうがいいのではないか。
そういう迷いが混じっているため息だ。
学問の探究は、つねに一歩進んだところにある。
困難と危険を恐れていては、真に価値ある研究はできない。
アロガンテッソは金も名誉もあまり興味はない。
ただ異形にもたらされた厄介な病を研究するため、わざわざこんな辺鄙な場所にきた。
でも、結局のところ、自分はあのいけ好かない賞金稼ぎとも大して変わらないと思った。
アロガンテッソは別に人間のためなど大それた精神はない。ただ研究が、魔法が好きなのだ。自分が持つ知識を誇りに思うし、何か成し遂げるたびに満足する。もし神官たちの治療術でさえ解決できないものを突き止めて、魔法の有用性を証明できれば、きっと……
でも、いまでは何かを成そうという気力も精神力もない。
寒風に晒されている部屋に縮こまって、宮廷魔法使いの思考がまとまらないうちに、ただ時間が意味もなく、過ぎていく。




