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【第三部完結】灰に至るまで  作者: からん
第二部 英雄の逝く町にて
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間話 敗走

 巻き上がる灰色の風から逃げるように、異形の群れは一斉に撤退しはじめた。


 本能のままに動く存在たちに「負け」という概念はない。


 ただ、()()()()()()()()という事実は、指揮官タイプを通じて全体に共用できた。


 ドレシアの内部の混乱を察して、指揮官タイプは即座に同類に呼びかけた。


 ――祝福の使い手を牽制しつつ、人類の巣窟を落とす。


 その戦略自体は正しい。


 圧倒的な物量は対城こそ真価を発揮するもの。


 祝福を持つ人間はたしかに最優先事項だが、限られた数で順番どおりに相手するのは愚かだ。


 しかし、薄緑の障壁が展開されたことによって数の優勢が発揮できなくなり、雨で遠距離の攻撃も使用不可能な状況に陥った。


 そして、決め手になったのは二人目の祝福の使い手が現れたことである。


 単体で途方も無い破壊力をもたらすからこそ、祝福を持つ敵は厄介だ。


 普通の戦場で見られる敗走、にはまったく当てはまらない秩序の整った進軍で、異形の群れは後ろから巻き上がる呪いを構わずにクレトム山脈の外へ向かう。


 死への恐怖がなく、ただ与えられた方向へ進む姿勢は、まさに理想的な兵士だろう。


 だからこそ大陸中に恐怖をもたらし、破滅を作ってきた。


 ――だが、それを待ち構えた者たちもいる。


 谷の底を、贅肉型と肢体型が交じってバラバラに動き、時折背負われて進む胴体型の姿も垣間見える。そして、岩壁を奔る関節型――中の数体は一団に固まって進んでいる。


 まるで何かを守るように撤退する奴らは、周囲の存在から明らかに浮いていた。


 緑の閃光が走る。


 無限の黄色が広がる砂漠から突如迸り、岩壁に打ち込んで思いっきり抉った。


 盾になった仲間が吹っ飛され、同時に衝撃で足場となる壁面は崩れる。


 半ば反射的に指揮官タイプは壁から降りる、が――次の閃光は容赦なく殺到した。


「始末できたっすよ。セリュー大尉」


「ええ、ご苦労。未熟な個体でよかったですね」


 望遠鏡で指揮官タイプが爆散したところを確認して、セリュー大尉は一度メガネを直す。対して狙撃を行ったフシーロ大尉は帝国製N17魔装ライフルの出力を調整して、魔力バッグの交換を行う。


「生け捕りにできなかったのは残念でしたけれど、指揮官(エプシロン)を始末できたことでよしとしましょう。では、いまから本来の作戦に戻ります」


「はっ!」


 指令ひとつ。


 砂漠に合わせて黄色に塗装したフルアーマーを着込んで数十名の兵士はすぐさま移動を開始した。


「指揮官タイプが生きていたら、すぐにでも再び大規模の攻勢がくるでしょう。これでドレシアもしばらく安全です」


「しっかし、大丈夫っすかね。少佐はどうもドレシアに余計な手助けはしたくない感じだけど?」


「安心してください。全責任は現場指揮官の私が取りますから」


「撃ったのはこっちっすけどね」


 ウーイー少佐の指示どおり、セリューを指揮官とする本隊は撤退の準備及び作戦部隊の援護に備えるため、ドレシアから外部に設置された臨時拠点まで撤退して、輸送小隊と合流した。


 無論、ここで指揮官タイプを討ち取ったのは当初の計画にないものだ。


 しかし西大陸から来た旅人のおかげで、戦況が予想外の方向に転び、だからセリュー大尉もこの場における最良の判断をした。


「大丈夫です。大佐もきっとそうしたと思います。臨機応変も重要ですよ」


「そうだといいけどね」


 砂漠に散っていく異形の視線を掻い潜って、甲冑姿の者はすぐに見えなくなった。

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