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【第三部完結】灰に至るまで  作者: からん
第二部 英雄の逝く町にて
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間話 声

 峡谷。


 ドレシアが外部と接続する主狭き場所で、数百の者が夜の暗闇を乗じて町の外へ向かっている。


 異形に加えて疫病。


 元々オアシスに存在していた断絶に、思わぬ異物が食い込んで、跋扈していた。


 町にいては、病に侵されなくとも、いずれ化け物の餌食になるだろう。


 だから、ここ数日悪化を辿る一方町の状況をかんがみて、逃げるという選択自体は間違ってはいない。むしろ至極当たり前のことだ。


 ただ……この時期において町を出るという行為がいかに危険なのか、十分に検討すべきなのも確かである。


 四本足で岩壁にしがみついて、関節型と呼ばれる異形はドレシアから離れる一行を観察している。本来なら人間を見れば見境なく襲いかかる存在だ。


 こうして落ち着きを保っているのは、ほかでもなく、奴が特殊だからだ。


 指揮官タイプ。


 外見はそこら中の関節型と見分けがつかない異形は、行動をより柔軟な方法で執行する能力を持つ。


 ――いわば変異種、と奴自身もそう認識している。


 特殊の個体がみんなそうなのか、それとも自分だけなのか奴には分からない。


 でも、奴は自分のなすべきことがはっきり分かっている。


 ――それは人間を滅ぼすことである。


 人間にとっての食事や睡眠と同じように、異形として受肉した指揮官タイプはそれが当たり前で、行動が続く限り必要不可欠な行為だった。


 自分たちは、つまりそういう存在だと、ごく自然に受け止めた。


 峡谷を通る一行を、指揮官タイプは複数の目玉を細めて観察する。


 各々が違う装備を手に、魔石で駆動する輸送具を使う。そして身に纏うのは普通の鎧ではなく、蒼い光が点滅する魔装。


 これは相手にしても大した意味はないと指揮官タイプは思った。


 東の精鋭。


 少人数のわりには戦闘力が高く、仲間に呼びかけて戦ったところで割りに合わない。


 先日ドレシアを攻める時、この部隊は遠距離の攻撃を難なく防ぎ、連携による捌きも手強かった。


 魔獣は地道に討伐するより巣窟を潰したほうがよほど手っ取り早い――これは人間にも適用するルールだ。


 だから、この部隊を指揮官タイプは見逃すと決めた。


 戦力となる者が狩りで外出する時こそ不意打ちの好機。


 砂漠の各処から集まった同類とともに人間の巣に攻めることこそ一番正しい選択だろう。


『荳€蜿キ莠悟捷荳牙捷譚キテ縺ヲ縺上□縺輔>』


『?』


 異形は魔獣と同様、主に魔石で身体を司る。これがほかの生物と一番大きな違いであり、ある範囲以内の同類と意識を一体化できることだ。


 水が蓄積して湖になったような感覚で、波紋が広げれば全体に響き渡る。だから指揮官タイプはここにしがみついて、山脈付近の同類に呼びかけている。


 戦力を分散して、バラバラに突っ込んでも意味はない。


 まずは一箇所に集まって、それから物量で押しつぶす。


 ほかの同類は本能のままでしか動かないこともあり、基本呼びかけには従順だ。


『騾溘¥縺励』


 意識の湖に、再び声がした。


 指揮官タイプが再び疑問を示して、いますぐにでも動き出そうとする同類の動きを止める。


 声の発生源はドレシア、城壁の向こう側にある。


 不鮮明で、ノイズがかかった声……自分たちではない何かに問いかけているようで、しかし、思考を持たない同類の注意を引くには十分すぎた。


 先日一部の同類がいきなり人間の巣をみつけたのも、その声がきっかけだ。


 高い城壁のわりに脆い防御。


 人間の気配がまるでしない金属の造物。


 どこか他人事のように構える東大陸の部隊。


 そして、滅ぼすべき標的の最優先――祝福を持つ人間。


 指揮官タイプは恐怖という感情がない。でも厄介と思うことはある。


 たとえば目下で峡谷を通り過ぎていく部隊はたしかに強いが、所詮は異形たちにとって勝利を引き延ばすための存在にすぎない。


 ――しかし、祝福を持つ人間は違う。


 少数で魔王ですら倒しうる力を持ち、劣勢でも戦局をひっくり返す可能性を生む。


 祝福を持つ人間は拠点よりも優先的に殲滅する必要がある。


 それは意識が芽生えた瞬間から植え付けられた思考だ。


 当然、この行為は甚大なダメージを負うことになるのだろう。


 しかし、相手はどんな力を持っていようと結局は人間。


 人間ならば消耗するし、疲弊もする。


 指揮官タイプにとって自分も仲間も所詮人間を滅ぼすための命。


 みな、大きな湖の中の一滴に過ぎないのだ。

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