表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第三部完結】灰に至るまで  作者: からん
第二部 英雄の逝く町にて
33/90

第3話 追跡者

 ドレシアには旧市街が存在する。


 都市基本構造は数本の大通りを中心に商業区、居住区が点在して、岩壁沿いのところに工房区が広がる形だが、それでも一応城壁の内側にあった。


 堀――通常ではそう呼ばれた場所に、前時代の遺物のような建築群が横たわっている。本来鉱石の発掘で形成された都市は、いまはドレシアの城門まで繋がる橋が完成したことで、ただの残骸になりつつある。


 ミゲルがこれから向かうのはまさにそこだった。


 住民は殆ど見かけない。


 城内は不景気でも喧々諤々たる雰囲気を放っているが、ここはひんやりとした廃れた雰囲気を放っている。


 壁に亀裂が入ったり、塗装が剥がれているのは、まだマシな方だ。明らかに傾いている建物や、崩れた天井に油脂を塗り込んだ撥水布を張って雨風を防いでいる建物が林立する。


 その上、古い民家に挟まれる街道も舗装の残骸に埋め尽くされ、凸凹になっていて歩き辛い。


 ったく、本当に厄介な。


 ミゲルはため息をつく。


 旧市街で生まれ育った彼にとって、いわば里帰りのようなものだが、さすがに帰ってきて早々尾行されるとは思わなかった。


 右、左、右、右。


 蜘蛛の巣を払い、足は澱んだ水溜りを踏み抜く。


 とりあえず人の目を避けようと、ミゲルは路地のほうに潜り込む。


 仕事の都合上ドレシアの道という道を歩き回っていたので、迷いなく道を選んでいける。


 ひとに恨まれるようなことは……まぁ、心当たりがありすぎてどれなのかさっぱり分からんが、こんな不始末になるような仕事をやった覚えはない。


 できればこのまま相手をまけたらいいと願いつつ、ミゲルはさらに足取りを速める。


 一方、相手の足取りには明らかに焦りが生じた。


 ふむ、地元の人間じゃないのか。だったらなおさらおかしいのだが。


 ミゲルの知る限り、尾行なんて真似をする奴は大抵旧市街の出身だ。


 これしきのことで混乱するような奴はむしろここでは異質だ。


「ん?」


 相手の足音が突如消えた。


「チッ」


 思いっきり壁を蹴って、ミゲルも素早く屋上に登ろうとする。


 足音が遠ざかっていったのではなく、ぱったり消えたとなれば、考えうる原因はひとつしかない。


 上だ。


 それでも、ミゲルの判断が一步遅れた。


 ボロボロのマントを羽織った、見るからに細い身体。


 三階の屋上から、追跡者と思われる者が飛び降りる。


 腰に帯びた投擲用ナイフ。


 壁を蹴りながらミゲルは迷わずに投げ打つ。


 こういう手練に手加減するほどミゲルはあまくない。


「なっ」


 路地の静寂を裂くキンと甲高い音。


 ミゲルの予想では、少なくとも相手の足止めにはなる攻撃を、なんと追跡者は投げてきた最初のナイフを掴み、それを武器に残りの数本を受け流す。


 ここまで来て、さすがにミゲルも逃げる気を失った。


 背中に仕込んだ短刀を抜き、その途端、右腕から薄緑の光が薄ら浮かび上がって刀身にこびり付く。


 風を軋ませる払いの一斬。


 青色の弧が宙に刻み、一方追跡者は流れるように身を翻し、鋭い角度から蹴りの一撃を見舞ってくる。


 今度はミゲルがぎりぎりの体勢で一撃を躱す。


「なにもんだ、おまえは」


 着地。


 やむを得ず屋上に登るという算段を諦めて、路地に降り立ったミゲルは糺す。


「正体を隠した奴に狙われるようなことはした覚えはないが」


 実際はあるすぎるぐらいだが、こう言ったほうが相手の感情を誘導しやすい。


 しかし相手は黙り込んで返事しない。


 その手にあるナイフは、ふっと赤く燃えだす。


 来る!


 魔法が使えるのはさすがに想定外だったが、ミゲルは応戦するほかない。


 くっそ、いったいどういうことだ。まさかあの女が、いや……ありえない。


 刃が交わる。


 魔力を纏う刃がからみあうたびに緑の破片が散り、廃退的な景色に舞う。


 どちらが格上なのかもはや素人でも一目瞭然だ。


 ただミゲルも気づいている。


 マントの繰り出す攻撃はたしかに鋭いが、致命傷になりそうなところは意図的に避けていた。


 つまり命までとるつもりはないということだ。


 ならば、こうだ。


 追跡者の放つ蹴りを右手でガードし、腰に帯びた魔石を、ミゲルは咄嗟の反応で足元に落とす。


 薄い光を放つ魔力の結晶。そこから、突如視界を掻き消すほどの強光が迸る。


 !


 普通の人間なら、これが爆弾とも見分けできず、直に襲ってくる衝撃で迷いを見せるだろう。


 だが相手は退くところか真正面から突っ込んでくる。


 交錯する一瞬。


 ミゲルにしてみれば絶対にありえない体勢で追跡者は攻撃を受け流し、転がるように地面の魔石を拾う。


「なっ!」


 無論、かといって相手も完全に無傷なわけではない。


 身体の制御が効かない部分――マントが大きく裂かれ、その奥に隠された姿が露わになる。


 ポニーテールに纏めた赤い髪が勢いよく跳ねて、顔が若干こわばった少女が手に持った魔石――ミゲルが特製した閃光弾(スタングレネード)を旧市街の上空まで投げつける。


「おんな?」


 あまりのできことに呆けたミゲル。


 気を取られた一瞬――少女の拳はその顔面にめりこんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ