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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第三章 鋼鉄の越境者(スティール アウトサイダー)
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時間切れ

 突然の奇行から露出された奇形の心臓に、カイトは唖然として言葉を失う。

 思考停止に陥りかけた彼は、しかし、視線の上端に見切れたD・ウォルトの嘲笑を目に留めた瞬間、謎の右腕の正体と、彼の行為が意味するところを全て悟った。


「そうか……残念だが俺は、もうお前へと手を貸してしまっていたみたいだな。こっちへと流れ着いた、あの基地に備えられていた兵器。それらの使用制限(ロック)を解除し、自律兵器の支配権(コントロール)までも掌握できたのは、切断された俺の右腕をお前が持っていたからだったのか―」

「本当にお前には、いや、お前の腕には助けられたぞ。渡界(とかい)の際に大半の機能を失っていた私の義身では、例え我が軍の装備品であっても、自由に行使ができなかった。そうした苦境にあって、貴様が残していってくれた、この制限解除(ハッキング)の端末が内蔵された作業腕(マニピュレータ)がなければ、我が命を繋ぎ止めることも、不相応な野望に支配された小権力者を懐柔(かいじゅう)することも、新たな希望を我が手に掴むことも叶わなかった。本当に貴様には、感謝しても感謝しきれぬわ!」

「礼には及ばないさ。だから、さっさとそれ、返してくれないか?」

「既に新しい物が生えておるらしい貴様には、もう必要はないだろう? 逆に、お前には残りの左腕の方も、是非とも私に譲って欲しいと思っているのだ」

「ハッキング装置の代替用(スペア)にか? 悪いがそういうのは、貸していた方の腕から複製品(コピー)でも作っておけよ。まさか、そんな作業も無理な程、そっちの物資(リソース)事情も苦しいってか?」

「いや、システムの解析と複製化は、とっくの昔に済ませておる。問題は、その時に私が発見した、右腕の記録媒体(レコード)に残されていた内容だ。そこには、貴様が時空間転位装置のハッキングを試みた際、機器側から受けた信号(パルス)の波長や種類が、断片的にではあるが詳細に記録されていた。これが、何を意味するか、分かるな?」


 思わせ振りなD・ウォルトの問いに、今度はカイトもすぐに、その発言の意図を察する。

 固い仏頂面を作った彼は、肩口から地肌が(あら)わとなっていた、自身の左腕を横目で睨んだ。


「あの時、俺はタイムマシンへの介入操作(ハッキング)を、両腕の端末で行った…………もし、お前の言った事が本当なら、こっちの腕にも異常反応(バグ)に関する情報(データ)が残っている、そういうことか」

「正しく!! そして、その二つの記録(メモリ)を解析し、照合すれば、我々が別世界へと飛ばされた際、時空間転位装置内でどのような反応が起こっていたか、完全に把握できる! そうなれば、それらを基に時空間転位装置へと改良を施し、『異空間転位装置(パラレル・マシン)』の製造も可能となる! 魔法という新たな力を手にした私が、真・世界帝王として、自らの世界へと凱旋(がいせん)を果たすのだ!!」

「前に、お前の名付けの発想力(ネーミングセンス)は貧弱だと言ったが、訂正する。壊滅的の、間違いだったな」

「おとなしく降伏し、私の配下となれ、カイト! その腕を差し出し、私へと忠誠を誓えば、貴様も元の世界へと戻れるのだぞ! 既に生来(しょうらい)の血肉はない貴様とて、こんな見知らぬ異界になど骨を埋めたくはないだろう!?」

「ああ、そうだな。それじゃあ、お前からその腕を取り戻して、俺だけ帰らせてもらうとする! お前は、このままこっちで、朽ち果てていろ!!」

 

 世界規模の大戦を引き起こし、多くの罪無き者を(しいた)げてきた上、更なる戦火を二つの世界へ拡げようとしている、加虐と支配と自己顕示の欲望に溺れた一人の男。

 そんな、世紀と世界を越えた大罪人に従うつもりも、その血濡れた野望を見逃すつもりも、カイトには毛頭なかった。

 禍々(まがまが)しい力と意志が(ほう)じられた、因縁の敵の巨躯へと向け、カイトは怒声と同時に駆け出す。

 義憤と私憤に駆られるまま、全速で標的へと躍り掛かった彼は、斜向(はすむ)かいへと置かれていた装置の残骸へと衝突した。


 激しく転倒した彼の視界は、その視覚範囲と解像度が、加速度的に悪化していく。

 それと合わせて、徐々に重さと痺れを増していく手足に、カイトは生理電解液の汚染が、遂に許容域(キャパ)を超えたことを体感的に悟った。

 伏せた顔へと苦悶の色を浮かべ、彼は軽い痙攣(けいれん)を起こす左手を腰へと伸ばす。

 ベルトへと挟んでいたはずの、彼が必要としている物は、しかしそこにはなかった。


「おやおやカイトくん、調子が悪そうだねぇ。もしかして探し物は、これかなあ?」


 鼓膜を揺らす軽いノイズ音に紛れて、間延びした野太い声が響く。

 うつ伏せの体勢から顔を上げたカイトの視線の先では、D・ウォルトが脇の下から伸ばした補助腕(サイド・アーム)の先で、彼が落としたナノマシン注入器を軽やかに回して(もてあそ)んでいた。

 所有する最後の一本を奪われたカイトは、力無く乾いた失笑を漏らす。虚脱させた身を横たえる彼を、D・ウォルトはさも可笑(おか)しそうに、下卑(げび)た眼差しで眺めていた。


「さあ、ここで、もう一度問おう。カイトよ、再び私へと従属するつもりはないか?」


 (あざけ)りの口調で告げられる最後通牒に、カイトは倒れ伏したまま、左手の中指を立てて見せる。

 彼の想いが全て込められたその返答(ジェスチャー)に、D・ウォルトは満足そうに満面の笑みを浮かべ、二本の鉄の指で掴んでいた容器を、真っ二つにへし折った。

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