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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第三章 鋼鉄の越境者(スティール アウトサイダー)
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忘れ物は、これですか?

機先を制して撃ち出された強装弾は、D・ウォルトの顔面へと着弾する直前、首元から展開された頭部装甲(ヘルメット)によって弾かれる。反撃とばかりに撃ち返された連射を、横っ跳びに回避したカイトは、傍らに立つ太い石柱の陰へと身を隠した。


 敵の死角へと入った彼はハンドガンを脇に捨て、掛け紐(ホルダー)で背中へと携帯していた対物仕様(アンチ・マテリアル)アサルトライフルを構える。

 激しく震える柱の側面へと肩を寄せたカイトは、連続した銃声が止んだ瞬間を見計らい、防壁の後ろから身を乗り出す。標的を探す照星(フロントサイト)の先には、先程までそこにあったはずの、巨大な鉄の人形は影も形もなかった。


「おやおやカイトくん、見ぃ~つけたぁ~っとぉ!」


 消失(ロスト)した目標へと当惑するカイトは、頭上から嬉々とした粘着質な声が振ってくるのを聞く。

 危機感を覚える暇もなく振り返ったそこには、巨岩の如き左の拳を大きく後ろへと引き絞り、眼下の彼へと狙いを合わせるD・ウォルトの姿があった。

 突如として背後へと現れた相手に、カイトは咄嗟(とっさ)に防御態勢へと移行する。胸の前へと並行に構えられたライフルは、直後に直撃した鉄拳の前に、ただの鉄塊となって押し潰された。

 貧弱な盾を圧殺したD・ウォルトの左拳は、勢いを弱めることなくカイトの胸部を捉える。

 至近距離から放たれる拳の形をした砲弾に、カイトは背後の石柱を貫通し、木の葉のように軽々と吹き飛ばされた。


 途中にあった幾つもの装置を()ぎ倒し、彼の義身(からだ)はようやく部屋の壁際で止まる。

 衝撃から平衡感覚(スタビライザ)に異常を来たしながらも、カイトは瞬時に態勢を立て直す。

 焦点(フォーカス)の乱れた視線の中、ゆったりとした足取りで歩み寄ってくる大男の威容に、彼は本能的な恐怖から、思わず後ろへと身を引いていた。

 

 彼の銃撃から反撃に移るまでの時間は、一秒にも満たなかった。

 その僅かな間に、推進器(ブースタ)さえ搭載していないと思しき巨大な鉄塊が、中距離にいる相手の背後を無音のまま取るなど、ありえるはずのない事態だった。

 

 まさか、これもタイムマシンの技術を応用した、戦術のひとつであるのか。

 敵の放つ不可解な技へと(おのの)くカイトを余所(よそ)に、D・ウォルトは重く緩慢な歩みを止めないまま、満足気に自らの体を眺め回す。


「素晴らしい、素晴らしいぞ! 重力操作の装備がなくとも、この高機動力! やはり私の見込んだ通り、軍事兵器への援用における汎用性と可能性は無限大だぁ!」

「何ッ……!? まさか、お前、その機体(スーツ)には―」

「ああ、そうだ、魔法だよ! 物は試しのつもりだったが、ここまで静音性を保ちながら高速で移動できるとは、期待以上の成果だ! これは、動力としての魔力を分けてくれた彼女にも、後でたっぷりと感謝をしてやらないといけないなあ!」


 興奮冷めやらない様子でそう言い放ったD・ウォルトは、保存器の中に浮かぶ被験体(サブジェクト)供給源(ソース)の少女を流し見る。相手の視線がメリッサを指していると知ったカイトは、その言葉の意味を反芻(はんすう)し、また別の驚きに打たれて絶句した。


 確かに、メリッサは出会った頃から、自身を『偉大な魔術師の卵』と称してはいた。

 しかし、彼女が自分の前で魔法らしき異能を使ったことはなく、本人もまた、魔法が使えないのを自覚しているようではあった。

 そんな彼女が、凄まじい馬力と能力を有する兵器を、稼働させる程の魔力を秘めていた。

 予想外の相手から、思わぬ形で明らかとされたその事実に、カイトは場違いに過ぎるとは理解していながら、(ほの)かな安堵感を覚えずにはいられなかった。


 微弱ながらもまだ生体反応のある彼女を一瞥(いちべつ)し、彼は再びD・ウォルトへと詰問する。


「つまり、昨日街を襲ったあの攻撃機は、膨大な魔力を蓄えたこいつを(さら)うために、お前が派遣したヤツだったって訳か。わざわざそんな玩具(おもちゃ)を作るために、ご苦労な事だな」

「欲しい物のためには、苦労も手段も惜しまないのが私の流儀(セオリー)でね。それに、あれを動かした見返りは充分にあったさ。(なに)せ、もうひとつの獲物であった貴様も、こうして私の元へと態々(わざわざ)やって来てくれたのだからなぁ」


 不意に投げられた意味深長な発言に、カイトは半笑いとしていた表情を不器用に強張らせる。

 疑念の眼差しを向ける相手へと、D・ウォルトはおもむろに腕を左右へと広げる。

 その動きに同期し、彼の胸部へと体幹に添って、直線の亀裂が入る。接続の解除された装甲は、外側へと翼のように展開した。

 物理的に開かれた彼の胸には、剥き出しとなった複雑な内部機構。そして、その中央へと垂直に深く埋め込まれた、肩先から切断された一本の右腕が収められていた。

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