忘れ物は、これですか?
機先を制して撃ち出された強装弾は、D・ウォルトの顔面へと着弾する直前、首元から展開された頭部装甲によって弾かれる。反撃とばかりに撃ち返された連射を、横っ跳びに回避したカイトは、傍らに立つ太い石柱の陰へと身を隠した。
敵の死角へと入った彼はハンドガンを脇に捨て、掛け紐で背中へと携帯していた対物仕様アサルトライフルを構える。
激しく震える柱の側面へと肩を寄せたカイトは、連続した銃声が止んだ瞬間を見計らい、防壁の後ろから身を乗り出す。標的を探す照星の先には、先程までそこにあったはずの、巨大な鉄の人形は影も形もなかった。
「おやおやカイトくん、見ぃ~つけたぁ~っとぉ!」
消失した目標へと当惑するカイトは、頭上から嬉々とした粘着質な声が振ってくるのを聞く。
危機感を覚える暇もなく振り返ったそこには、巨岩の如き左の拳を大きく後ろへと引き絞り、眼下の彼へと狙いを合わせるD・ウォルトの姿があった。
突如として背後へと現れた相手に、カイトは咄嗟に防御態勢へと移行する。胸の前へと並行に構えられたライフルは、直後に直撃した鉄拳の前に、ただの鉄塊となって押し潰された。
貧弱な盾を圧殺したD・ウォルトの左拳は、勢いを弱めることなくカイトの胸部を捉える。
至近距離から放たれる拳の形をした砲弾に、カイトは背後の石柱を貫通し、木の葉のように軽々と吹き飛ばされた。
途中にあった幾つもの装置を薙ぎ倒し、彼の義身はようやく部屋の壁際で止まる。
衝撃から平衡感覚に異常を来たしながらも、カイトは瞬時に態勢を立て直す。
焦点の乱れた視線の中、ゆったりとした足取りで歩み寄ってくる大男の威容に、彼は本能的な恐怖から、思わず後ろへと身を引いていた。
彼の銃撃から反撃に移るまでの時間は、一秒にも満たなかった。
その僅かな間に、推進器さえ搭載していないと思しき巨大な鉄塊が、中距離にいる相手の背後を無音のまま取るなど、ありえるはずのない事態だった。
まさか、これもタイムマシンの技術を応用した、戦術のひとつであるのか。
敵の放つ不可解な技へと慄くカイトを余所に、D・ウォルトは重く緩慢な歩みを止めないまま、満足気に自らの体を眺め回す。
「素晴らしい、素晴らしいぞ! 重力操作の装備がなくとも、この高機動力! やはり私の見込んだ通り、軍事兵器への援用における汎用性と可能性は無限大だぁ!」
「何ッ……!? まさか、お前、その機体には―」
「ああ、そうだ、魔法だよ! 物は試しのつもりだったが、ここまで静音性を保ちながら高速で移動できるとは、期待以上の成果だ! これは、動力としての魔力を分けてくれた彼女にも、後でたっぷりと感謝をしてやらないといけないなあ!」
興奮冷めやらない様子でそう言い放ったD・ウォルトは、保存器の中に浮かぶ被験体兼供給源の少女を流し見る。相手の視線がメリッサを指していると知ったカイトは、その言葉の意味を反芻し、また別の驚きに打たれて絶句した。
確かに、メリッサは出会った頃から、自身を『偉大な魔術師の卵』と称してはいた。
しかし、彼女が自分の前で魔法らしき異能を使ったことはなく、本人もまた、魔法が使えないのを自覚しているようではあった。
そんな彼女が、凄まじい馬力と能力を有する兵器を、稼働させる程の魔力を秘めていた。
予想外の相手から、思わぬ形で明らかとされたその事実に、カイトは場違いに過ぎるとは理解していながら、仄かな安堵感を覚えずにはいられなかった。
微弱ながらもまだ生体反応のある彼女を一瞥し、彼は再びD・ウォルトへと詰問する。
「つまり、昨日街を襲ったあの攻撃機は、膨大な魔力を蓄えたこいつを攫うために、お前が派遣したヤツだったって訳か。わざわざそんな玩具を作るために、ご苦労な事だな」
「欲しい物のためには、苦労も手段も惜しまないのが私の流儀でね。それに、あれを動かした見返りは充分にあったさ。何せ、もうひとつの獲物であった貴様も、こうして私の元へと態々やって来てくれたのだからなぁ」
不意に投げられた意味深長な発言に、カイトは半笑いとしていた表情を不器用に強張らせる。
疑念の眼差しを向ける相手へと、D・ウォルトはおもむろに腕を左右へと広げる。
その動きに同期し、彼の胸部へと体幹に添って、直線の亀裂が入る。接続の解除された装甲は、外側へと翼のように展開した。
物理的に開かれた彼の胸には、剥き出しとなった複雑な内部機構。そして、その中央へと垂直に深く埋め込まれた、肩先から切断された一本の右腕が収められていた。




