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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第三章 鋼鉄の越境者(スティール アウトサイダー)
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魔動の兵士

「あいつは、ネックマンは何をしておる!? 既に例の物は、完成したのではなかったのか!?」

「そのはずです。しかし、何やら最後の確認があるとかで、先程まで作業を続けて―」

「何を悠長(ゆうちょう)な!! あいつの耳には、この騒ぎが聞こえんのか!? あれは間違いなく、王国が差し向けた刺客だ!! 元を正せば、彼奴(きゃつ)が小娘一人のために大事を起こしたのが原因ではないのか!? 万が一、我が身に何かがあったら、貴様共々ただでは置かんぞ!!」


 小刻みな歩みで廊下を進んでいたグランドール公は、激情と緊張に青黒く染まった顔を後ろに向け、付き従っていたアビゲイルへとそう怒鳴り散らす。

 もはや、何の脈絡も合理性もない彼の恫喝(どうかつ)に、彼女は冷めた溜息を心の中で漏らし、さも従順そうに頭を垂れて見せた。

 おとなしく沈黙を守るだけの相手に、グランドール公は忌々(いまいま)しげに舌を鳴らし、足元に敷かれた絨毯(じゅうたん)の上を、更に強く、早く踏み抜けていった。


 引き連れた四名の近衛兵(このえへい)の合間から覗く、豪奢な真紅の外套(マント)に覆われた彼の背は、心なしかいつもより小さく縮こまって見える。

 隠しようのない恐怖と怯えの気配を帯びた、醜態(しゅうたい)とも言える自らの主人の姿に、しかしそれも仕方がないことかと、アビゲイルは周囲に響く騒乱の残響に耳を傾けた。


 先程、天守へと潜入した何者かによって、城内は混乱の坩堝(るつぼ)と化していた。

 城の警備を務める兵士達は、全員が銃の鋼骸器で武装しており、その発砲音も途切れることなく響き続けている。だが、逆にその事実は、正体不明の侵入者が未だに健在であり、尚且(なおか)つ大量の鋼骸器を用いても簡単には討ち取れない、かなりの難敵であることを示してもいた。

 侵入者が経路として利用した正門側は、ギスティアが守備を固めていたはずの場所である。そこを相手が突破し、しかしながら彼が消滅した様子もないのを見ると、どうやら敵は複数である可能性も高かった。


 本来であれば、戦闘向きの魔術を体得しているアビゲイルも、迎撃に出るのが道理ではある。

 そうした、配下の魔導士の主張を蹴ったグランドール公は、自身のネックマンとの面会に際して、彼女も同行するように言い渡した。

 一応は彼もまた、秘密裡(ひみつり)ながらもグランドール公に臣従(しんじゅう)した身ではある。

 だが、表向きは忠誠を誓っているとしても、その異様に過ぎる存在と、底の窺えない不気味な気質には、主人である彼もどこか空恐ろしさを感じているようだった。

 そんな信用のならない相手の元へと、グランドール公が直々に向かっているのは、(ひとえ)に例の計画における成果を実働させるためであった。

 グランドール公を支援者(パトロン)とし、ネックマンの主導によって進められ、アビゲイルの協力によって補完されたそれは、既に完成の段階を迎えていた。

 最後の課題であった魔力の大量供給も、メリッサの捕縛によって通過(クリア)していた。

 後は、実戦への投入を前に、実用に耐えられるか試験をする必要があったが、グランドール公はそれを、今回の襲撃者の排除に当てようと考えたのだった。


 (なか)ば、本能的な恐怖に駆られての彼の厳命に、何故かネックマンは、なかなか応じようとはしなかった。再三の要請に対し、同じ内容の返答を返し続ける相手に、遂にはグランドール公も痺れを切らし、自ら真意を(ただ)しに行くことを決めたのだった。

 アビゲイルも含めた護衛を連れ、彼は回廊の突き当たりに伸びる階段を下っていく。

 壁に掛けられた角灯(ランタン)の薄明りを頼りに、湿った空気の溜まる地下へと降りたグランドール公は、従者が先に開けておいた扉を潜り、倉庫の中へと小走りに駆け込んだ。


「ネックマン、貴様なぜ私の命令に応えない!? よもや、最後の最後でしくじったなどと抜かすつもりなら、その無い首を無理にでも打ち首に―」

 

 開口一番、怒りの絶叫を部屋に轟かせた彼は、次の瞬間、それを驚嘆の吐息へと変えた。

 作業場としてネックマンに与えられていた天守の地下倉庫は、床一面に置かれた大小様々で用途も不明な鋼骸器が、等間隔で立てられた緑の燐光を放つ円柱状の照明に浮かび上がるという、禁忌的な空気に満ちた異質で不気味な様相(ようそう)(てい)していた。

 だが、その本来の姿から一変した部屋の光景は、グランドール公も以前、目にはしていた。

 彼を感嘆させたのは、その見覚えのある内装の中へと新たに加わっていた、部屋の明かりに浮かび上がる鋼鉄の巨人の陰だった。


 出入り口の反対側で屹立(きつりつ)する、常人の二回り以上はあるその巨体は、全身が鋼骸器によって構成されていた。

 隙間なく鈍色(にび)(はがね)に覆われた、生命感を微塵も感じさせない巨漢の両腕には、どのように用いるのか想像もつかない、複雑怪奇な構造をした鋼骸器が装着されている。

 重厚な異界の鎧に身を包み、この世界の物ではない武具を携えた、異形の土傀儡(ゴーレム)

 それこそが、王国の打倒と政権奪取を目的とした、鋼骸器による兵力増強の先駆けとして開発が進められていた、『魔動鋼骸兵』の姿だった。


「これはこれは、我が領主様。わざわざこのような所までご足労頂けるとは、恐縮の極みに存じます。ようやく、これの調整も終わりました次第でしたので、(じか)にこちらから拝謁(はいえつ)を賜ろうかと考えていたのですが」


 凍るような静寂に包まれていた部屋に、不意に重々しい男の声が響く。

 驚きに打たれた一同が部屋を見渡す中、魔動鋼骸兵の(かぶと)が擦れた金属音を立てて上がる。

 顕わになったその頭部には、不遜(ふそん)な笑みを浮かべた、ネックマンの体が収められていた。


 思わぬ形で登場した相手に、グランドール公は身を(すく)ませ、一瞬だけ怯みを見せる。

 それでも、すぐに体裁を(つくろ)った彼は、間に合わせの虚勢を保ちつつ、新たな体を手に入れた臣下の方へと大股で歩み寄っていった。


「これが例の、魔力を源として動くという、比類なき無双の鋼骸種か―。しかし、なぜ貴様がその上へと乗っている?」

「高みより見下ろす非礼を、お許しください。しかし、この魔動鋼骸兵はまだ試作段階にあり、自ら考えて動くことは叶いません。故に、その足りない頭の役目を、不肖(ふしょう)ながら我が身で補おうという次第に御座います」

「試作、だと…………!? よもや、未だ実戦には使えないと抜かすつもり―」

「ご心配には及びません。これはあくまで、万難を排し、万全を期すための処置。既に動力となる魔力も十全に蓄え終えた今、これは完全なる働きをお見せすることが可能です」


 グランドール公の詰問をやんわりと退(しりぞ)けた、鋼骸兵の肉体を得たネックマンの背後には、その魔力の供給源となったメリッサが浮かんでいた。

 輪郭を際立させる衣服(タイツ)に包まれた彼女の体は、透明な柱の中を脱力したまま揺蕩(たゆた)っている。

 死んだように水中を浮遊する彼女は、しかし、閉ざされた(まぶた)痙攣(けいれん)に合わせて震える長い睫毛(まつげ)が、まだその命が尽きてはいないことを示していた。


 元弟子の存命をそれとなく確かめたアビゲイルは、音も無く密かに嘆息する。

 そんな彼女の反応など眼中に入らないグランドール公は、安全確保のため間に入った護衛二人の背中越しに、見上げる姿勢となったネックマンへと続けて叫ぶ。


「であれば、即刻その成果を見せてみろ! この城に敵襲があったことは、とっくに伝え聞いているはずだ! 相手は恐らく、王国から送り込まれた精鋭だ!」

「ほほう、なるほどですか。それは、相手にとって不足はありませんな」

「分かっておるなら、さっさと行かんか! 奴らに動きを気取られた以上、後には引けん! 荒野で野垂れ死にかけていたお前を助け、これまで願いを聞いてきてやった恩義を、今こそこの私へと示してみせ―」


 落ち着いた物腰を崩さない相手に、グランドール公は興奮に震えた声で怒鳴り立てる。

 そして、勢い良く放たれていた口角泡と入れ違いに、一斉に押し寄せた無数の銃弾によって、彼の忙しなく開閉していた顎は止められた。

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