メリッサ救出作戦
「正面から、こちらへと接近する騎馬を確認! 数は一! どうやら、友軍ではない模様!」
突如として響き渡る野太い声の警報に、塔屋で仮眠を取っていた警備隊の隊長は、ハッとして微睡みから覚醒した。
慌てて外の歩廊へと出た彼は、発声をした警備兵の指し示す先へと目を凝らす。
城門前へと伸びる通りの先には、後方へ朦々とした土埃を上げ、猛烈な速度でこちらへと迫りつつある黒毛の馬が見えた。
未だ距離があるために判然とはしないが、その背には二つの人影があった。
見覚えのない馬と、自軍の物と明らかに異なる服装をした二人組に、彼は即座に部下達へと迎撃の準備を発令した。
「敵襲! 敵襲! 警邏中の者は正門側の警備兵と合流! それ以外の警備兵は、各自の配置箇所の守りを固め、側面からの攻撃に備えよ! お前は、上へとこの事を伝令! 急げ!」
傍らの兵士を突き飛ばすように報告へ送り出した警備隊長は、周囲へと発破を掛けつつ迎撃態勢を整える。
やがて、防衛の準備がようやく終わった頃には、先程まで遥か遠くにあったはずの敵影は、相手の身形がはっきりと見て取れるまでに接近していた。
一陣の風と化して迫る馬は、驚くべき事に、希少種であるユニコーンであった。
少なくとも、その馬上に跨る二人の男が、ただの盗賊や発狂者の類いでないのは、火を見るよりも明らかだった。
「全員、構え! 狙いを合わせ、そのまま待機! 発砲はまだ控えろ!」
事の重大さを肌で感じ取った警備隊長は、声を張り上げ、部下達へと指示を飛ばす。
彼の朗々とした号令に合わせ、城門上の歩廊へと居並んでいた十数人の兵士達は、携えていた長首の鋼骸器の銃口を、それぞれの狭間から一斉に標的へと向けた。
跳ね橋が上がっている今、正面から城塞都市内に入る方法はない。
また、相手が何かしらの強引な手に打って出たとしても、それが実を結ぶよりも早く蜂の巣にすれば良いだけだった。
後は、主人である領主からの下知を待ち、もしもの時も、異形の武器の性能の程を、実戦において確かめる良い機会になるだろう。
無謀な突撃を仕掛けてくる正体不明の相手にも、警備隊長はあくまで余裕を保っていた。
しかし、圧倒的有利の状況に裏打ちされた彼の平静は、次の瞬間視界へと飛び込んできた、敵の振る舞いによって脆くも打ち破られた。
既に、謎の騎馬は城門の目前へと到っていた。
と、その馬上で後方に跨っていた方の男が、不意に何かを両肩へと掲げる。
不審に思い目を凝らした警備隊長は、間を置かず、その両眼を愕然として見開く。
敵の一人が両の手に持っていたのは、以前に彼も演習で目にしていた、強力な爆弾を遠くへと発射する種類の鋼骸器だった。
直後、我へと返った警備隊長は、集中砲火の命令を迎撃部隊へと発する。興奮に裏返った彼の号令は、意味をもって部下達へと伝わるより僅かに先に、火竜の息吹を思わせる強烈な噴射音によって掻き消された。
白煙の尾を引いて空を裂いた卵型の弾頭は、後部に生えた四つの安定翼をはためかせ、畳まれていた跳ね橋へと同時に着弾する。
城門を内側から焼く、猛烈な爆風を伴った爆炎に、真下から衝撃で突き上げられた警備兵達は揃って態勢を崩す。
統制を乱す迎撃部隊の様子を確認したカイトは、手にしていた携帯式対戦闘兵器擲弾発射器(RPG)を両方とも投げ捨て、目の前で揺れるヒルデブレヒトの後頭部へと叫び掛けた。
「今だ、行け! 向こうはひるんでいる、このまま正面突破だ!」
「分かっている! 振り落とされないように、しっかり掴まれ!」
風音に負けない程に張り上げられた彼の声に、カイトは即座に相手の腰へと腕を回す。
直後、城壁を囲む空堀の手前へと到っていた黒燕号は、一足にそこを跳び越え、濁った黒煙に淀む城門へと跳び込んだ。
カイトが放った、前に敵の検問所で鹵獲していたRPGの弾頭は、格納されていた跳ね橋へと大穴を開けていた。
歪な傷口を晒すその突破口を、黒燕号は一個の黒い弾丸と化して潜り抜ける。城門の下に敷かれた石畳へと華麗に着地した彼女は、背中に乗る主の指示に従い、その道の先ヘと勢いを弱めることなく駆け続けた。
強引に城塞の中へと突入した彼らは、城門に面していた大通りに添い、彼方に聳え立つ巨大な天守を目指す。
城塞都市の中心に建つそこには、グランドール公がいる可能性が高い。
寡兵による電撃戦(PL)を仕掛けた以上、相手の攻勢が本格的となるよりも早く、急所を迅速に抑える必要がある。となれば、ここは一気加勢に敵の本陣へと迫り、そこにいる敵の頭目を押さえ敵勢力を無力化するのが、カイト達が勝利する最善にして唯一の策だった。
初めはヒルデブレヒトも難色を示した、今回の敵城塞への強襲作戦は、しかし想定以上の効果を上げていた。
戒厳令の敷かれていたらしい城内は、一般市民の姿はほとんどなく、警戒中の兵士達がそこかしこに溢れていた。
だが、突然の爆音に虚を突かれていた彼らは、一様に困惑し、混乱していた。
なので、眼前を物凄い速さで駆け抜けていく黒い騎馬にも、それが急襲者であると気付いて攻撃を加える暇もなく、素直に相手を通過させてしまっていた。
やがて、敵襲を告げる鐘の音が鳴り響く頃には、敵側も状況を把握し、態勢を整えつつあった。
街路を走る見慣れない馬とその騎乗者に、相手を騒動の原因と見定めた兵士達は、次々とライフルで銃撃を行う。あらゆる方向から浴びせられる弾丸の雨に、ヒルデブレヒトは魔鋼器による電磁結界で、カイトはハンドガンとライフルによる二丁拳銃で、それぞれ対抗した。
攻防一体となった彼らの反撃に、その行く手に立ち塞がる兵士達は、あえなく次々と打ち倒されていく。
やがて、止まる所を知らないカイト達の進軍は、家々の密集する地域を突破し、天守へと繋がる幅広の階段の前へと到った。




