表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第三章 鋼鉄の越境者(スティール アウトサイダー)
68/84

敵陣偵察

 カイト達がブルトロットの町を()ってから、彼の体内計時機(インナー・タイマー)で二時間四十二分十八秒後。

 有視界下にある城壁と城下町の一帯を観察し終えたカイトは、遠望(ディスタント)モードとしていた視覚ユニットの倍率を戻し、身を潜めていた茂みの奥へと引き返す。

 偵察から帰ってきた彼に、大樹の陰へと屈み込んで待機していたヒルデブレヒトは、グランドール公の居城とその周辺の動向について尋ねた。


「街中には巡回の兵士がうろついていて、城壁の上には間隔をおいて見張りが立っていやがる。しかも、どいつも突撃小銃(アサルトライフル)狙撃銃(スナイパーライフル)……あー、つまり、遠くから攻撃できる鋼骸器持ちだ」

「やっぱり、警戒はしていて当然か……。彼らは全員、そういった鋼骸器を使えると思うか?」

「練度についてなら、人それぞれとしか言えないな。だが、あくまで武器として使用可能な状態にあって、そのための最低限の知識や技量を備えているのは、間違いないだろうな」


 ここに至るまでの道中で、二人は止むを得ず、検問を敷いていたグランドール配下の一個小隊と交戦していた。

 その際、敵の兵士の一部は拳銃(ハンドガン)自動小銃(ライフル)で武装し、戦闘中には弾倉の交換(マガジン・チェンジ)まで行っていた。

 手際については、お世辞にも、実戦慣れしたものとは言えなかった。

 それでも、彼らが異界の兵器の扱いを熟知し、それを思い通りに行使しているのは、紛れもない事実だった。


「だけど、どうしてだ? 鋼骸器を思い通りに操れるなんて、それこそ、君に会うまで見たことも聞いたこともなかった。まさか、同じように鋼骸器を目覚めさせる鋼骸種が、向こうにもいるって訳じゃ―?」

「それ、結構良いところ突いてるかもな。まあ、俺としては、そうじゃないと祈りたいが……」

「カイト、ここは一旦引かないか? グランドール公が、鋼骸器を使役している証拠は掴んだ。それがあれば、騎士団も正式に調査を開始出来るし、相手の出方次第では実力行使に訴えることも出来る。そうなれば、向こうもこれ以上、見知らぬ振りは続けられないはずさ」

「確かに、な……それには、俺も同意だ。じゃあ、ここからは別行動にしよう。お前は、あいつらから奪った鋼骸器を持って、助けを呼びに行くんだ。俺は、このまま敵の拠点(アジト)に潜入する」


 ヒルデブレヒトの提案を受け入れたカイトは、彼へと口早に指示を出し、低い姿勢を保ったまま腰を上げる。そのまま、潜伏場所から離れようとする相手を、ヒルデブレヒトは慌ててその腕を取って引き留めた。


「待て! 向こうはもう、警戒態勢を整えているんだろう!? そんな所に単身で突っ込むなんて、幾ら君でもそんなのは自殺行為だ! メリッサが心配なのは、僕も同じだ! だけど、だからこそ、慎重に動かなければ、彼女の身に危険が及ぶかもしれないじゃないか!?」

「お前の言っていることは、正論だ。だが、もし、俺の予想が当たっているなら、こっちの出方がメリッサの安否に影響はしないはずだ。目的が何であれ、メリッサは利用価値があるならまだ生かされているだろうし、用済みならとっくに殺されているはずだ。俺の知っているあいつは、良くも悪くも、とても思い切りの良い性格をしていたからな」

「えっ……君は、グランドール公を知っているのかい?」

「いや、そうじゃあ、ないんだがな……。とにかく、俺はこのまま行かせてもらうぞ。悠長(ゆうちょう)に援軍を待っている時間も気も、残念ながら俺にはないんでな」


 歯切れの悪く、それでいて決然とした物言いで、カイトは自らの決意を明らかにする。

 少しも妥協する気配のない彼を、ヒルデブレヒトは黙したまま見上げる。不意に、その固く引き結ばれていた唇が(ゆる)み、彼は失笑にも似た、砕けた笑いを漏らした。


「なるほど……どうやら僕は、君の覚悟を甘く見ていたみたいだ。まったく、おとぎ話の中の王子でも、たった一人で敵の軍隊に立ち向かうなんてしないよ」

「それで、お前はどうする? 俺が先走って攻撃を加えたら、当然、奴らも今後の動きを加速させるはずだ。それが嫌なら、仲間を呼びに行く前にまず、俺を倒しておく必要があるが?」

「そうだな……確かに、君に失敗してもらったら、騎士団としても都合は悪い。だから、君が呆気なくしくじってしまわないように、僕も付いていかないといけないだろうね」


 揶揄(からか)いを含めた挑発に対し、思いも掛けない答えを返す相手に、不意を突かれたカイトは唖然として目を丸くする。


「いやいや、どうしてそうなる? 敵の懐に飛び込むのは、死にたがりのすることじゃなかったのかよ? 第一、お前が伝令にいかなきゃ、騎士団もこの事を知らずじまいになるぞ」

「支部の方には、グランドール公の城下へ偵察に行くと伝えてある。だから、もしもの時でも僕の失踪を口実に、本部の方も踏み込んだ手段に訴えられるはずさ。それとも、同じ向こう見ずな騎士は、お供には要らないのでしょうか、王子様?」


 カイトの指摘へと余裕の表情で返したヒルデブレヒトは、らしくない意地の悪い微笑みを浮かべ、(うやうや)しく(こうべ)を垂れる。

 意趣返し(カウンター)を受ける格好となったカイトは、思わず言葉を失い、中腰のまま固まる。

 やがて、硬直していた顔面に苦り切った笑みを浮かべた彼は、さも面倒くさそうに髪を掻き乱しながら吐き捨てた。


「ったく、自称魔女の奴といい、天才的な奇人といい、こっちの世界には変人の類いしかいないのかよ……。いいぜ、そこまでいうなら付き合ってもらうからな。死んでから後悔しても、苦情は聞かねぇからな」

「了解だ。それで、どうやって敵陣に潜入する? グランドール公のいる街の周囲は視界も開けていて、加えて堅固な城壁で囲まれている。こちらの存在を気取られずに忍び込むのは、ほとんど不可能だ。ここは、人目に付きづらくなる夜になるのを待つかい?」

「言ったろ、呑気に時間を潰してる暇はないって。それに、どうやってもこっそり入れないというのなら、答えは簡単だ。こっそりと、入らなきゃいいんだ」

 

 突然の謎掛けへと戸惑うヒルデブレヒトに、カイトは口角を弓形(ゆみなり)に吊り上げ、意味深で(たの)しげな薄笑いを返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ