表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第三章 鋼鉄の越境者(スティール アウトサイダー)
67/84

失われた魔女を求めて

 手にしていたナノマシン注入器の針を、首の後ろにある専用の接続口へと差し込む。

 容器内から流れ込んだ医療用ナノマシンが、汚染の進行していた生体電導液を浄化していくのを実感(アナライズ)したカイトは、安堵から深く長い溜息を漏らした。


 手元にある使用可能な注入器は、既に残りは一本しかない。

 もし、いま使用した分が不良品であったなら、長距離の移動と激しい戦闘が想定される今後の行動において、非常に不都合な事態が生じるのは明白だった。


「カイ、いま大丈夫? 右腕の修理と改修、終わったよ!」


 最悪の状況を回避し、一息を入れたカイトの元に、作業場の方からルチアが姿を見せる。

 彼女の手には、彼女自身の作品でもある、取り外(パージ)された彼の右腕があった。

 昨日の戦闘終了後、ルチアは状態確認(メンテナンス)補修(リペア)を行いたいとして、自作の腕を回収していた。

 本心としては、カイトはすぐにでもメリッサの救出に向かいたかった。

 しかし、初めての運用であったそれには不具合も少なくなく、攻撃機との交戦を介して損傷も生じていた。

 幾つもの命運が賭けられた決戦には、やはり、万全を期した上で臨まなければならない。

 ルチアの熱心で熱烈な説得もあり、カイトも苦渋の決断から、最後には彼女の申し出を受け入れた。そして、焼け付くような焦燥に駆られ続けた彼の一夜は、どうやら無駄ではなかったようだった。


 カイトはルチアの介助を得ながら、改修済みの右腕を装着する。同期化(シンクロ)を終え、軽く動作確認をしたそれは、前よりも更に可動域が広がり、反応(レスポンス)もまた迅速(じんそく)なものとなっていた。


「カイが、いろいろとアドバイスしてくれたからね~。私の方でも、ちょっと部品とかを変えてみたりしたんだけど、動きとかには問題ない?」

「最高だぜ、これは! これなら、全力で戦えるはずだ! やっぱり凄いな、お前は!」


 腕の具合を問うルチアに、カイトは感謝と賛辞の笑みを送りつつ、椅子から腰を上げる。

 勢い良く立ち上がる彼に、しかし、ルチアはその右腕から手を離そうとはしない。

 戸惑いの眼差しで自分を見下ろすカイトへと、彼女はにこやかに、力強く微笑みかけた。


「言っとくけどこれ、作るのとても大変だったんだよ。だから、メリーを助けた後はちゃんと、私まで返しにきてよね。じゃないと、絶対に許さないんだから!」

「ああ……任せておけ。もしもの時は、こいつだけでもメリッサに持たせて帰らせるさ」

「う~ん、そういう場合だったら、(むし)ろあなたの体の方を、持ってきて欲しいような―」

「いや、そこは、分かったで終わらせてくれよ……」


 冗談とも本気ともつかない、ルチアからの激励(げきれい)の言葉を受けた後、カイトは(あらかじ)め用意していた装備一式を(たずさ)え、彼女の店を後にする。

 武器をはち切れんばかりに詰め込んだ、革の巾着袋を背に外へと出た彼を、玄関先で有角の黒馬と共に待っていたヒルデブレヒトが出迎えた。


「やあ、遅かったじゃないか。そろそろ、僕だけでも行こうかと思っていたところだったよ」

「ヒルデブレヒト……!? お前、騎士団への報告に行ったんじゃなかったのか!? 何で、まだこの街に残っているんだよ!?」


 彼は昨日、ブルトロットの町への攻撃機の襲来と、それにおけるグランドール公の関与を上層部へと伝えるため、街から去っていたはずだった。

 予想外の再会へと驚くカイトに、ヒルデブレヒトは決まり悪そうに苦笑を浮かべる。


「最寄りの支部には、既に伝達済みだ。恐らく、今日明日中には一個中隊が先行して、この町へと調査と支援のために派遣されるはずさ。だけど、まず間違いなく、グランドール公に対する討伐軍は組織されないだろうし、彼が審問のために召喚されることもないだろうね」


 彼から(もたら)された凶報に、しかしカイトはさほど落胆もせず、小さな溜息を漏らすだけだった。


「まあ、薄々予想はしていたさ。あの鋼骸種の巣を見付けたのが、人の姿をした同族だなんて知ったら、よっぽどの馬鹿かお人好しじゃなきゃ信用するはずはないだろうしな」

「いや、君についてはまだ、上には伝えていないよ。もし君の存在を騎士団が把握したら、最悪、問答無用での即刻排除。良くて、研究対象として生け捕りにしようとするだろうからね」

「どっちもどっちだな、そりゃ……。だけど、良いのか? そんな相手を(かば)って秘密になんかしたのがバレたら、お前もいろいろと不味いことになっちまうぞ」

「その時は改めて、身の振り方を考えるとするさ。それに、いま君が騎士団に狙われるのは、僕にとっても都合が悪いからね。囚われのお姫様を助けにいくには、仲間は一人でも多い方が心強いだろ?」


 唐突に放たれた意味深な発言に、カイトは思わず自分の聴覚ユニットを疑う。

 戸惑いと驚きの混ざった彼の視線を、ヒルデブレヒトは柔和な微笑みの中に光る、真剣な輝きを帯びた両の瞳で受け止めた。


「メリッサが連れ去られたのは、親玉(ボス)の鋼骸種を倒し切れず、しかも油断をしていた僕にも責任がある。それに、僕は彼女に、絶対に守ると約束した。だから、僕も君と一緒にグランドール公の居城へと行く。こっちの世界の地理に明るくない君にも、途中の案内人は必要だろう?」

「……本物の、馬鹿かお前? 相手は、お前達の言う鋼骸器で武装している上に、あれと同じような鋼骸種を何体も揃えているかもしれないんだぞ? そんな所に、言ってることも本当かどうか分からないバケモノと道連れに突っ込むなんて、正気の沙汰じゃねえだろうが」

「少なくとも、昨日の君の言葉に嘘はなかった。根拠とか証拠なら、僕にはそれだけで充分さ。まあ、そんなことで化け物を信じてしまうような、狂気染みた相手と協力するのがどうしても嫌なら、無理強いはしないけどね」


 その皮肉めいた口調とは裏腹に、彼の声にはひたむきなまでに切実な響きが込められていた。

 戸惑い、呆気に取られていたカイトは、やがて小さく吹き出すと、さも意地の悪そうな表情へと相好を崩した。


「なるほど、な。じゃあ、変わり者は変わり者同士、仲良くお散歩に出かけるとするか。もっとも、帰りはないかもしれない旅路だ。取り止めるなら、今の内だぞ?」

「これでも、一応は騎士の端くれだ。誓いの言葉は、最期まで(まっと)うしてみせるさ。さて、そうとなれば善は急げだ。メリッサの身も心配だし、早くグランドール公の元に向かうとしよう。さあ、僕の後ろに乗ってくれ。今から出発すれば、昼までには着けるはずさ」


 お互いの意見が合ったのを見たヒルデブレヒトは、傍らの黒燕号へと軽やかに飛び乗る。

 (くら)の上で空いた背後を示す彼に、カイトは小さく鼻で笑うと、首を素早く横に振ってみせた。


「いや、俺は徒歩で行く。言ってなかったかもしれないが、俺は見た目以上に体重が重いんだ。そんな奴を同乗なんかさせたら、お前の愛馬も目的地に行くまでに参っちまうぞ」

「僕も伝えてなかったけど、こいつは装備一式を揃えた重装騎士が騎乗した状態でも、丸一日の行軍が可能な種類なんだ。心配してくれるのは有り難いけど、それには及ばないよ」

「いや、だが俺の走る速さなら、遅れずに付いて行けるはずだ。だから、気を使わないでくれ」

「でも、君は長時間の運動を続けると、体がおかしくなってしまうんだろう? いざという時に倒れられたら、僕だって困る。相手は油断の出来ない奴らだって、君も言ってたじゃないか」

「まあ、確かに、その通りだ……だけど、そうは言っても、やっぱり、あの、あれだ……」


 何故か、急に威勢を弱め、決まり悪そうに視線を彷徨(さまよ)わせ始めるカイトに、ヒルデブレヒトは不審そうに小首を傾げる。

 そんな主の心中を察してか、黒燕号も苛立たし気に前足で地面を蹴り付ける。唐突に打ち鳴らされる蹄鉄(ていてつ)の音に、カイトは両肩を鋭く跳ね上げ、右足を引いて一歩下がった。

 荒々しく(たてがみ)を振り乱す相手を、強張った面持ちとなって凝視する彼の様子に、ヒルデブレヒトはまさかと思いつつも尋ねかけた。


「えっと、もしかして君、こいつのことが怖いのかい……?」

「…………背中に乗ったら、首を回して噛みついてきたりとか、角で刺してきたりとか、しないよな……?」


 生まれて初めて間近で見る、生きた異形の獣に、カイトは当惑を滲ませた瞳で、その一挙手一投足を注視する。そんな、怯えを隠しきれない彼を嘲笑(あざわら)うかのように、彼女は(わざ)とらしく大きな鼻息を鳴らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ