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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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ロスト アンド シーク

 緊張を切らしたのか、急に脱力状態となって倒れ込むメリッサに、カイトは慌てて彼女の方へと踏み出す。相手の体を受け止めようと伸ばした彼の腕は、しかし、虚しく空を掴んだ。

 カイトの抱擁(ほうよう)を逃れたメリッサの体は、骨抜きとなった手足を引き摺り、背中向きに地面の上を滑っていく。二人から離れ、防波堤の近くまで引き返した彼女の先には、その長髪に覆われた(うなじ)と黒い線で繋がった、一機のドローンが浮かんでいた。


 まだ撃破されていなかった個体が、アンカーからの電気ショックでメリッサを気絶させ、そのまま彼女の体を自身の元へと牽引(けんいん)した。

 状況を素早く理解したカイトは、思考を脇へと置き、彼女の救出へと向かう。路面に亀裂を生じさせる勢いで駆け出した彼は、しかし、直後に横合いから撃ち込まれた銃弾の嵐に行く手を阻まれた。


 不意打ちを受けてよろめく彼に、応急予備回路(バックアップ)によって火器管制系統(FCS)の制御を回復させていた攻撃機は、制圧射撃を継続する。

 だが、損傷の(いちじる)しい光学ユニットは照準を合わせきれず、弾丸を広範囲へと無作為にばらまく。狙いを上手く定められないでいる攻撃機に、流れ弾を電磁結界で弾きながら死角へと回り込んだヒルデブレヒトは、その眼球へと三度(みたび)魔鋼器の剣先を突き刺した。

 破損箇所を重ねて(えぐ)った(やいば)は、前よりも更に強烈な電流を(ほとばし)らせる。内部の回路を隅々まで燃やし尽くす電撃に、攻撃機は傷口より火花の血潮を散らし、完全に機能を停止させた。


 攻撃機の最期の反撃は、敵に直接的な被害を与えるには至らなかった。

 しかし、自身の支援偵察機の援護という意味では、充分な効果を発揮していた。


 辛うじて直撃を避けていたカイトは、ヒルデブレヒトが(とど)めを刺したのを見届け、頭部を(かば)っていた腕から顔を上げる。その目には、合流した別の一機と共に、メリッサの背中と脚部をそれぞれで持ち上げ、戦場から離脱していくドローンの姿が映った。


 カイトは思わず悪態を()き、メリッサの拉致を試みる二機を全速で追う。だが、初動が遥かに早かったドローン達は、彼が追い付くよりも先に、既に海の上へと飛び出していた。

 海面の上を離れていく人型をした機影を、カイトは防波堤の端から()(すべ)なく見送るしかない。やがて、遅れて横隣りへと走ってきたヒルデブレヒトに、彼はその胸倉へと乱暴に掴み掛かりながら、メリッサを捕えたドローンを急ぎ指し示した。


「おい、あれを、あの鋼骸種を、お前のその武器で落とせ! 早くしろ!」

「無理だ、メリッサと密着し過ぎている! あの状態で撃ち落とせば、彼女も感電してしまう! そうなれば、ほぼ間違いなく死ぬぞ!」


 彼の苦渋に満ちた返答に、カイトは続く言葉が見付からず、苛立ち混じりに相手を突き放す。

 そうして彼らが問答をしている間にも、メリッサを連れたドローンは、遥か沖合の方にまで遠ざかっている。もはや、手出しの叶わない場所と距離へ逃れた敵の残党を、カイトは(きし)むような失意と無力感に(さいな)まれながら眺めるしかない。


 カイトはそれが、無意味で愚かな行動であると理解していた。

 だが、彼は次第に点となり、彼方に浮かぶ対岸の方へと消えていく飛行体に向けて、声を限りに自分の契約者の名前を呼ばずにはいられなかった。

 戦いの跡も生々しい港へと響いたその叫びは、次第に戻りつつあった野次馬達のざわめきの中へと、答える者もなく静かに溶けていった。



 カイトとヒルデブレヒトがルチアの工房に戻ったのは、そこの店主が正に街へと繰り出そうとしていた直前だった。

 巨大鋼骸種が討伐されたと人伝(ひとづて)に耳にした彼女は、その死骸から珍しい部位が()れないか調べるついでに、メリッサ達の無事を確かめに行くつもりだった。なので、その相手が連れ立って店の中へと飛び込んできたのには、さすがの彼女も声を上げて驚きを顕わにしていた。


「うわっひゃ、カイ!? あっ、その腕! ちゃんと動いて―」

「話は後だ! ここに置いてある機械、使わせてもらうぞ!」


 動いている右腕へと感動するルチアを突っ()ね、カイトは室内に雑然と積まれていた彼女の備品を(あさ)り始める。

 有無を言わせず、自らの所有品(コレクション)をひっくり返していく彼を茫然(ぼうぜん)と眺めていた彼女は、ふと、メリッサが二人と一緒にいないことに気付いた。


「あれ、メリーは? 彼女も、鋼骸種をやっつけに行ってたんじゃなかったっけ?」

「それが、実は……彼女は、小型の鋼骸種に、連れ去られてしまったんだ……」

「えっ、えええっ、何ソレ!? どうして、何でそんな…………ん、ちょっとヒル、あなたの持ってるそれ、何? もしかしてもしかして、鋼骸種から抜き取ってきたやつ!?」


 躊躇(ためら)いがちにヒルデブレヒトが明かした事実へと血相を変えた彼女は、しかし次の瞬間、彼が抱えていた小箱大の鋼骸器を前に目の色を変えた。

 突然に現れた見慣れない珍品に、ルチアは喜色満面となってヒルデブレヒトへと跳びつく。

 そんな彼女を横合いから強引に押し退()けたカイトは、ヒルデブレヒトからその装置を受け取り、机の上へと置く。

 そして、見付け出していた双方向(トゥー・ウェイ)配線(ケーブル)端子(コネクタ)を左の手首にある差込接続器(コンセント)へと挿入(インサート)した彼は、もう一方を攻撃機の残骸から取り出していた航空記録機器(FDR)へと差し込み、内蔵されている情報(データ)解析(ハッキング)を開始した。


 なぜ、あのドローン達がメリッサを連れ去ったのか、カイトは全く見当さえつかなかった。

 同時に、その不可解な行動の理由と、彼女の行方を知る手掛かりが、いま目の前にある工具箱大の装置(ブラックボックス)に収められているであろうことを、彼は確信していた。


 複雑に暗号化(エンクリプト)され、何重にも認証制限(ロック)の掛けられた蓄積データを、カイトは片端から次々に解読(デコード)していく。

 一心不乱に作業へと没頭する彼に、その行為の意味を理解できないヒルデブレヒトとルチアは、相手の放つ鬼気迫る雰囲気を前に、ただ静かに傍観を決め込むしかなかった。

 

 やがて、息も詰まるような沈黙が、数分程続いた頃。

 遂に全データの解析を完了したカイトは、(おびただ)しい数列が浮かんでいた両の(まぶた)を上げると、隣に立つヒルデブレヒトへと向けて、自分の右斜め前を指し示してみせた。


「おいヒル! ここから、こっち側に73Km(キロ)移動した所には何がある!? 知っているか!?」


 フライト・データ・レコーダに残されていた航行記録から、今回の出撃における攻撃機の出発地点を把握したカイトの問いに、ヒルデブレヒトは眉を上げて息を呑む。

 彼は微かに動揺を滲ませながらも、何かを確かめるようにカイトの示す先を静かに見詰める。

 そして、短い熟慮の末に結論を出した彼は、焦燥に満ちた面持ちで待ち受ける相手へと、指定された距離と方向に在る物について回答した。


「いま、君が言った場所は、グランドール侯爵の領地内……しかも、恐らくは彼の居城がある地域の、すぐ近くで間違いないと思う」

「グランドール…………おい、まさか、そいつ―」


 聞き覚えのある名詞へと眉を(ひそ)めるカイトに、ヒルデブレヒトは固い面持ちで首肯を返す。


「ああ、そうだ。前に話した、今回の任務における僕の調査対象……鋼骸器の大量収集で嫌疑が掛けられている、その人だ」

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