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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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ヒーローと秘密兵器は、最後に出るもの

 港までの道中は、鋼骸種襲来の噂を聞き付けた人々が集まり、異様な賑わいを見せていた。

 だが、そんな彼らも路地を駆け抜けていく黒い一角獣を追う、話題の中心となっていた鉄の怪物が現れた途端、蜘蛛(くも)の子を散らすように近くの家の中へと逃げ込んでいっていた。


 街路を逃げ惑う人々を()かないよう細心の注意を払いつつ、ヒルデブレヒトはすぐ後方へと付ける鋼骸種へと半身を返して魔鋼器を構える。

 もし、相手がこちらの背へと攻撃をしてきたら、電磁結界で防御を行わなければならない。

 もしくは、途中でその矛先が他の市民へと向けられた場合、被害が生じる前に銃撃を行い、敵の狙いを再度こちらへと引き戻す必要があった。


神経を極限にまで研ぎ澄まし、ヒルデブレヒトは鋼骸種の一挙手一投足を(つぶ)さに見守る。

 しかし、そんな彼の努力にも関わらず、当の本人は一定の距離をおいて追跡を続行するだけで、何も目立った動きを取る気配はなかった。

 不可解な沈黙を保ちながら、自分達の後をただ追い続ける相手に、ヒルデブレヒトは言い知れない不気味さを覚えつつ、メリッサの言葉通りに街路を走っていく。


 やがて、奇妙な逃走劇が始まってから、数えて七本目の曲がり角を通過した直後。

 突然、眼前が大きく開け、(まばゆ)いばかりの白い陽光と空と海の青が広がった。

 ようやく辿り着いた目的地を前に、メリッサは息を弾ませながら、帆船の並ぶ船着き場の反対側を指さす。


「あっち、あそこよ! ここの灯台は、向こうの先にあるわ!」


 風の音に負けないよう声を張り上げる彼女だったが、海沿いに立つ背の高い石塔の威容は、既にヒルデブレヒトの目にも映っていた。

 彼は黒燕号の腹に蹴りを入れ、最終目的地へと港に添って疾走していく。

 突然に訪れた脅威へと恐怖と混乱の坩堝(るつぼ)と化す船着き場を抜け、二人を乗せた黒燕号は防波堤の上を渡って、突き当たりに建つ小振りな塔の下へと着く。

 行き詰まったヒルデブレヒトは、黒燕号の手綱を横へと返して足を止める。そんな彼らの様子を、()かず離れず追ってきていた鋼骸種は、防波堤の上へと身を浮かべながら見守っていた。

 唯一の退路を塞ぐように立ちはだかる敵を前に、ヒルデブレヒトは腕の中で身を竦ませているメリッサへと耳打ちする。


「さてと、言われた通りに来てみたけれど……君の相棒は、これからどうするつもりだい?」

「だから、そんなの私も聞いてないって! あいつッ、いったいどこにいるのよぉっ!?」


 ゆっくりと距離を狭め、徐々にその巨大さと圧迫感を増していく鉄色の鳥に、メリッサは怒りに震えた涙声を上げながら、周囲を忙しなく見渡していた。


 やはり、自らの直感に従った結果とはいえ、鋼骸種の言葉を信じるべきではなかったか。

 絶対的な危機的状況の中、ヒルデブレヒトは自分の愚かしいまでの単純さと、そんな邪推(じゃすい)に心を揺らしてしまう未熟さに、固い微笑を頬へと刻む。

 やがて、袋小路に追い込んだ獲物の頭上へと迫った鋼骸種は、硬質で甲高い鳴き声に合わせ、八つの口を回し始める。

 次の瞬間には浴びせられるであろう鉄の唾に備え、ヒルデブレヒトは魔鋼器を盾の形状に変形させて構える。彼が張る最後の抵抗としての電磁結界に、無慈悲なまでの攻撃が叩き込まれようとした時、突然、鋼骸種の胴体が固い打突音と共に激しく震えた。


 急に体勢を崩して身悶えをする相手を、メリッサは伏せていた顔を上げ、訳が分からないままに凝視する。一方、ヒルデブレヒトは中空の鋼骸種に、何処からか飛んできた巨大な(いかり)が命中する瞬間を、しっかりと目撃していた。

 鋼骸種を捕えた(さび)とフジツボまみれの鎖は、幾重にもその左翼へと巻き付き、相手の動きを完全に殺している。獲物の自由を完全に奪った鎖の先には、彼らのいる防波堤から少し離れた桟橋に立ち、引き絞られた鎖を懸命に抑えているカイトの姿があった。


「あっ、カイっ、トおっ!? あんた遅いわよ、死ぬところだったじゃないのぉッ!!」


 ようやく現れた相方へと、メリッサは声を限りに、安堵の混じった怒号を飛ばす。

 遠目から浴びせられる非難の声に、カイトは少し気まずそうにはにかんで見せる。

 それから、彼は鎖を掴む左腕を大きく引き、上空の鋼骸種を自身の方へと引き寄せた。


 凄まじい力で引っ張られた鋼骸種は、自身を縛る拘束具を外すことも叶わず、その場へと繋ぎ止められている。

 港に係留(けいりゅう)する大型船の碇とその鎖で、空を飛ぶ相手の動きを封じ込める。

 鋼骸種を港へ誘導するよう頼んできたカイトの真意を、ヒルデブレヒトは彼の行動を目にして悟る。彼は、少しでも相手を疑ったことを心中で詫びつつ、回避も攻撃もままならないでいる鋼骸種へと、射撃形態とした魔鋼器からの連射を見舞った。


 ただの大きな的と化した鋼骸種に、彼の弾は一発残らず命中する。

 それでも、雷の威力を帯びた銃撃をどれだけ顔面に受けても、相手は弱る素振りさえ見せなかった。逆に、その怪物は次第に姿勢を立て直し、自らを縛る(いまし)めを解こうと暴れ始めた。

 異質な羽音を轟かせ、上空に逃れようとする鋼骸種に、更に強い力を加えられた鎖は鈍く固い悲鳴を上げる。また、その端を押さえていたカイトも徐々に力負けし、既に桟橋の波打ち際にまで引き摺られてしまっていた。


 このままでは、鋼骸種が解放されるばかりか、カイトの身にまで危険が及んでしまう。

 不吉な予感に襲われたヒルデブレヒトは、一向に有効打を与えられない武器を下げ、鎖を離すようカイトに告げるべく息を吸い込む。しかし、その空気が声となって放たれるより一足早く、メリッサが大きな叫び声を遠くの彼へと向けて放った。


「カイト、あんた何であれを使わないのよ!? 出し惜しみしてる場合じゃないでしょ!」

「言われなくても、今、使おうとしてたっての! じゃあ、早速、いくかあっ!」


 痺れを切らした彼女の文句に、桟橋の際で踏ん張っていたカイトは、口角を笑みの形に曲げてそう返す。 彼らのやり取りの趣旨が分からず、一瞬途方に暮れるヒルデブレヒトだったが、次にカイトが取った行動を目にして、メリッサの言う『あれ』の正体をすぐに知った。


 不意に、彼の方からは陰になっていた、カイトの胴体の右側で何かが持ち上がる。

 それは、カイトの体とは余りにも不釣り合いな見た目をした、しかし、彼の正体を知る者としてはさほど違和感を覚えない、重厚な金属の肌をした鋼骸器の右腕だった。


 メリッサが鋼骸種の襲来を知らせ、その助けに応じてヒルデブレヒトがカイトの援護に向かおうとした際。連れ立って店を出ようとする二人を、そこの主である少女のルチャーナは慌てて呼び止め、メリッサへと短い言伝(ことづて)と共に何かを渡していた。

 気の(はや)っていた彼は、年若い店主が友人に渡した、羊皮の布の中身に注意を払わなかった。しかし、長い薪木(まきぎ)のような形をしていたそれが、失われていたカイトの腕であったのだと、ヒルデブレヒトは今更ながら理解した。

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